【今回のルート】
Day0:渋谷→(夜行バス)→上高地
Day1:上高地→横尾→涸沢カール
Day2:涸沢カール→ザイテングラート→奥穂高岳(白出のコル)→涸沢岳→最低のコル→北穂高岳→涸沢カール
Day3:涸沢カール→上高地→渋谷
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やはり間に合わなかった。そもそも絶対に間に合わせたいというほどでもなく、間に合えばいいかな、ぐらいだったため別に後悔はない。
あわよくば穂高岳山荘あたりでご来光を望めればと思っていたが、ザイテングラートでご来光を拝むことになった。
背後を照らすオレンジ色の光が、ザイテングラートの岩場を灯し始める。
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3:00AMに起きて4:00AMごろにようやく涸沢カールに張ったテントを出た。いつも通り早起きして、ちんたら朝ごはんを準備したりパッキングをしたりしてしまった。今日必要な荷物はカメラ、ヘルメット、防寒具、行動食、ガス、コッヘル、ヘッドライト、グローブぐらいだろう、少なくて助かる。
今年涸沢に来るのは2回目である。初夏の涸沢は快適で、ソフトクリームやビールがおいしかったことを記憶している。その時は友達とダラダラとすることが目的だったが、今回は違う。ソロで奥穂高岳・北穂高岳を登ることが目的だ。
9月末の涸沢は冷えるが、正直思っていたほど寒くはなかった。寒くなかったのはおそらく運が良かっただけだから参考にはしてほしくない。
この日の朝を穂高岳山荘で迎えようか悩んだが、穂高岳山荘はその分寒そうだし、テントを持って登るのはリスキーな気もしたので安全をとって涸沢カールにしておいた。のちにわかるが、北穂高への縦走を考えるとこの選択は正しかったようだ。
いつも通り朝ごはんに餅をフリーズドライの味噌汁で煮込み、甘いカフェオレと共にいただき、登山靴の紐を絞める。
第一の目標である奥穂高に行くために、涸沢小屋の脇のルートを通ることにした。
中秋の名月は終わったばかりでこの時期でもかなり明るい。
この道は最初は樹林地帯を歩き、すぐにガレ場に出る。最初は良かったのだが、ガレ場が広いこともあってヘッドライトで照らす先に○のマークがすぐに見えなくなる。ゆっくりと確認しながら進んでいたのだが、暗い中だとわかりにくいから注意が必要だ。
僕が涸沢カールを出た5番目ぐらいの人だったのだろうか、行先にほとんど人はいない。ほとんどというだけでいないわけではないし、後ろにも数人いるから道迷いの心配はしていない(そもそも見晴らしはバッチリ)。
なんとなく正しそうな道を通っていくと登山道にちゃんと出た。
穂高岳山荘への登山道の先には欠け始めた月が登っていて、その黄金の永遠に向かって歩いているみたいだ。ロマンチック。
コースタイムでは涸沢カールから穂高岳山荘まで約3時間で、途中からザイテングラートと呼ばれるところに入ることになっている。そもそもザイテングラートってなんだ?強そうだぞ。
(調べたところによると、ドイツ語で「支尾根」「側稜」の意味らしい。ファイナルファンタジーの武器としても出てくるらしい。やっぱり強そう。)
「先行ってくださいー」
ちょっと前を行くちょっと目上なおじさまが言う。
「私カメなんでー。昨日槍ヶ岳から横沢に降りて、また涸沢に来て、今ここにいますー。大キレット通る勇気がなくて」
自分を卑下なさっているが十分歩くの早く、そもそも体力的に強そうだ。
とはいえ、僕は今日十分に時間があり、時に立ち止まって写真を撮ったりしているから決して早くはない。
「今日どちらまで行かれるんですか?」僕は聞いた。
「奥穂高に登って、そのまま上高地に下山します」
いろんな人がいるものだ。
そんな話をしているうちにだんだん背後が明るくなってくる。振り向くたびにオレンジ色が拡大し、目の前の岩稜もヘッドライトなしでも歩けるようになってきた。
「すごいところですね」
「本当、美しいです。美しいです。やっぱり美しいです」
案の定、穂高岳山荘でのご来光は無理だったがこれはこれで悪くない。雲海の向こうから太陽が顔を出し始めた。
* * *
標識はあったのだろうか。どこから始まったのかわからないが、おそれくこれがザイテングラートと呼ばれそうなところに差し掛かっていた。
トラバースさせられたり、岩を登らされたり、梯子を歩かされたりしていた。
超危険という感じはしないがテント泊で使用するマットが横にはみ出ていたりすると結構危ない感じがした。
「いやー大変なところですね!槍ヶ岳の方が簡単でした」
「え、ここの方が難しいんですか」
私は槍ヶ岳に行ったことがないため、意外な感じがした。
だんだんオレンジ色が白くなり、月も小さくなっていった。今日が本格的に始まろうとしている。
続く。
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