【ユーゴスラビア】かつて、「南スラブ人の国」と呼ばれる奇跡の多様性国家があった。

オフリド コラム

かつて、ユーゴスラビアという国があった。

「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの宗教、三つの言語、二つの文字・・・」

最後一つは一般的には「一つの国家」とか「一つのユーゴスラビア」と言われることが多い。あまりにも偉大な「一人のチトー」という人もいる。

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ユーゴスラビアの概要

ユーゴスラビアとは。

ユーゴスラビアの「七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの宗教、三つの言語、二つの文字、一つの国家」という有名なスローガンを耳にしたことがある人も多いだろう。

私は高校生の世界史の授業で耳にしたことをなんとなく覚えている。実際はこのスローガンに沿うほど物事はシンプルではないが、その複雑さを言い表し、印象を残している意味で語られるものなのだろう。

ユーゴスラビアは終身大統領ヨシップ・ブロズ・チトーの存在ありきだ。これだけ複雑な国家を30年以上平和にまとめていたのも、このチトーのカリスマ性だと言われている。

「南スラブ人の国」の大セルビア主義

ユーゴスラビアは「南スラブ人の国」という意味だ。第一次世界大戦後、セルビア王国を中心に、クロアチア人・スロベニア人が加わって誕生。つまりセルビアが中心なのだ。当然ユーゴスラビアの首都はベオグラード。

このセルビアが中心であるという「大セルビア主義」はユーゴスラビアを理解する上で重要な考え方だ。

セルビア人がヨーロッパに到達したときの居住地が故地であること、中世セルビア王国の領土、その後にセルビア人が移り住んだ地、のいずれかに該当する場所が大セルビア主義でいうセルビアだ。

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大セルビア主義はこちら

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ユーゴスラビアの特徴

この国の特徴は「モザイク国家」。多様な民族から構成されているが、アメリカやオーストラリアとは異なる。

アメリカやオーストラリアは「融合」が進んだ多様性国家であり、少なくとも現代は民族同士の異なる発想から新しい文化を作り出す。例えばジャズのような黒人音楽が白人につながるようなイメージ。これは「モザイク国家」ではない。

一方ユーゴスラビアは融合しない。それぞれの民族のコミュニティーの立場が強いという特徴を持つ。

ユーゴスラビアを構成した国々

七つの国境。

アルファベット順に、(1)アルバニア(ALBANIA)、(2)オーストリア(AUSTRIA)、(3)ブルガリア(BULGARIA)、(4)ギリシャ(GREECE)、(5)ハンガリー(HUNGARY)、(6)イタリア(ITALY)、(7)ルーマニア(ROMANIA)。

これだけのイデオロギーが異なる国に囲まれている事情もあり、政治的に不安定な地域であることが推測できます。アルバニアに関しては鎖国政策を取っていたことで有名です。

「七つの不安」と呼ぶこともあるとか。

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食べ物は地域としてトルコ風のものも多い。

六つの共和国。

(1)ボスニア・ヘルツェゴビナ、(2)クロアチア、(3)マケドニア、(4)モンテネグロ、(5)セルビア、(6)スロベニア。

このうちスロベニアは、そのイタリアの隣国という立地から特に経済的に発展しており、クロアチアは港が発展しています。

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スロベニアのブレッド湖

五つの民族。

(1)クロアチア人(19.7%)、(2)マケドニア人(6.0%)、(3)モンテネグロ人(2.6%)、(4)セルビア人(36.3%)、(5)スロベニア人(7.8%)。

一般的にこの五つの民族に分類されますが、このほかボシュニャク人(8.9%)やハンガリー人(1.9%)がいます。ボシュニャク人はオスマントルコ支配下でイスラム教へ改宗した南スラブ人で、ボスニア・ヘルツェゴビナを民族的な故地と考えています。

民族的な自認によるところもあるので、この分類はかなり難しい。そしてどれほど意味があるのか。

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マケドニアのスコピエ

四つの言語。

(1)クロアチア語、(2)マケドニア語、(3)セルビア語、(4)スロベニア語。

クロアチア語はラテン文字を主として使用します。セルビア語とほとんど同じでユーゴスラビアの時代は同じ言語とみなされていました。セルビア語はラテン文字とキリル文字の両方を使用。

マケドニア語はキリル文字。スロベニア語はラテン文字。

三つの宗教。

(1)東方正教、(2)カトリック、(3)イスラム教。

マケドニアのオフリドはキリスト教でとても重要な地。かつて350以上の教会があり、マケドニアのエルサレムと呼ばれるほどの宗教の地。マケドニア正教の大主教座がおかれました。オスマン帝国が支配していたという経緯からイスラム教も広がっています。

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二つの文字

(1)キリル文字、(2)ラテン文字。

全く違う文字。両方の文字を使うセルビア語では相互変換できるソフトがあります。この二つは使い分けられていて、例えばインターネットではラテン文字とか。

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アルバニアのジロカストラ

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一つの国家。一人のチトー。

(1)ユーゴスラビア(Yugoslavia)。

この複雑なモザイク国家をまとめてきたチトー。第二次世界大戦の時には独力でドイツを追い払います。

そんな一人のチトー。スターリンととも対立。ソ連側には属さない形で社会主義を貫いてきたユーゴスラビア。反ソ連感情を利用して複雑な国家をまとめてきたとも言われます。

このユーゴスラビアの国歌は「スラブ人よ」。基本となるメロディはポーランドと同じもの。曲は19世紀半ばにポーランド人と思われるカミル・クロファス・オグニスキが作曲。国歌が「スラブ人よ」であるため、セルビア人は毎回ブーイングをしていたという(セルビア人も南スラブ人に入る)。

チトーがなくなった後、1989年の東欧革命とともにユーゴスラビアは瓦解していくことになります。

美しい自然と、個性的な歴史。魅力的なモザイク文化。ここは、ヨーロッパの火薬庫。

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