3時AMになった。ろくに寝られていないがそれは大体の登山と同様である。
7月上旬とはいえ知床の朝は寒く、寝起きでは身体が十分に動かせない。とはいえ15℃程度ではあろうが連日35℃越えだったため体の慣れの問題である。
まずは風呂に入ろう。木下小屋の開放的なお風呂は何も考えなくて良いぐらい心地が良い。昨日の夜はおいちゃんもいたため、また気持ち的にそんなにゆっくりは入られなかった。今はさしずめ冬の早朝の露天風呂といった感覚で、夜風(いや、朝だが)が爽やか、身体はぬくぬく。
あ、こういう暗い時はこれが便利です。ソーラーバッテリーで軽い、テント泊でもめっちゃ役立つ。
これまで数え切れないぐらいの温泉に浸かってきたが、その中でも冬の渋温泉や学生の時に行った草津温泉を思い出す。いずれも雪の降る露天風呂、やはり温泉は雪と相性が良く印象に残りやすいようだ。
いや、温泉はいい。こんなところで尺を取るのではなく羅臼に登ろう。私は登山装備を身につけ、ランチパック類似の日糧製パンのラブラブサンド(チョコレート味)なるものを朝食として腹に詰め込む。日糧製パンは山崎製パン様と業務提携をしているため問題ないと判断する。
登山名簿に名を記し登り始めることにした。登り初めは4時AM。周りは明るくヘッドライトは全然必要ない。概ねであるが日の出が3:40、日の入りが19:10。実際はその前後も明るいため3:00〜20:00頃がまぁ明るいと感じた。言いたいことは、だいぶ北の方なんだな、それだけ。
コースタイムは6時間半だか7時間半だかと久しぶりに長めであり、体力には気をつけよう。
* * *
道中、特筆事項はほとんどないのだが、先に歩いていた数組は抜かした。今回は荷物が日帰り装備で非常に楽。おそらくこの日にこのルートを歩くのは私が先頭になったようであるが、なにやら蜘蛛の巣なのかわからないが糸っぽいものがしばしば歩いている途中でまとわりついてくるのを感じた。
道は普通である。季節柄花が多く咲いている。
普通でないところといえばクマが怖いことである。あらかじめダウンロードしておいたPodcastでコテンラジオやら佐久間宣行のANN0やらゆとたわなんかを聴きながら意気揚々と歩く。このスピーカーが登山で役に立つ時が来るとは想定していなかった。なお佐久間宣行のANN0では「前回の放送後に帰宅した後に自宅マンションでタイトルコールをしてしまったおじさん問題」について話しており思わず笑ったことを記憶している。ゆとたわの内容は全く思い出せない、不思議なものだ。
ちなみにこのスピーカー、愛用しているが非常に便利である。軽い上、水濡れもOK。自宅だけでなくて旅先でも重宝する。
なお、やはりクマは怖いので、クマ鈴はリンリンガシャガシャ鳴っている他、なんとなく独り言を言ってみたり、木下小屋の仙人の助言通り曲がり角で手を叩いてみたりしている。
オホーツク展望
銀冷水
この銀冷水等、いくつか沢はあるのであるが、実際は地面を流れる川で湧水の場所へのアプローチはできなそうだ。現実的に水場として機能するのは下記の岩清水ぐらい。その岩清水も季節によっては枯れることがあるようなので特に縦走組は要注意。
たまになんとなく獣臭がする気がする。考えすぎだろうか。
極楽平あたりにトイレブースがある。隠れられるようになっているだけの普通の建物なので携帯用トイレは必要。
大沢。
7月上旬の雪渓はまだしっかりと残っており、軽アイゼンとストックを使用して乗り越えた。翌日の斜里岳のことも考えてスパッツも持ってこようかと思っていたが、忘れた。振り返るとオホーツク海が開け、最高に美しい。やや雪の反射光が目に刺さる。サングラスを持ってこればよかった。
久しぶりの雪渓は踏み抜きそうで怖いが楽しい。しかしながら行く方向がわからず20〜30分ほど右往左往してしまったのはここだけの話だ。いや、雪渓が楽しすぎて遊んでいただけだ。普通にすればおそらく迷う人などおらず、普通に上に行けば良い。ロープがあってここじゃない、と思ってしまったのだが、ロープの脇にちゃんと道がある。まぁ楽しかったからよしとしておこう。
この大沢の脇でシマリスが二匹通り過ぎるのを見た。かわいい。また気になることに人間ではない何か生物の足跡が雪渓の登り降りに残っている。ヒグマには会わないことを祈ろう。
羅臼平。ここは最高だ。最高に格好いい羅臼岳と硫黄岳を仰ぐことができる開放的な空間だ。
羅臼平は大沢の雪渓を登りちょっと稜線を歩いたら辿り着いた。ここから硫黄岳へ縦走できるらしい。どうやら羅臼平でテント泊をした方がいらっしゃるようで、ザックが二つデポされていた。ここにデポするのはクマ的理由で賛成できない。というのは怯えすぎだろうか。なお、ちょっと歩くとフードロッカーもある。
そして羅臼平に泊まるのは正直羨ましい。テント泊そのものもさることながら、オホーツクから現れ、そして硫黄岳に去っていく太陽(方角はイメージ)、羅臼岳頂上から眺める夕日と雲海、流れゆく星々・・・そんなの最高じゃないか。だが、今回は旅程やクマのことがあるため日帰りのピストン。カナシミブルー。
岩清水。
ワイングラスっぽいものが置かれている。
「ここの水は美味いから飲んだほうが良い」と木下小屋に一緒に泊まった方が仰っていたため、少し飲む。たぶん美味しかった。エキノコッカスが大丈夫ならそれで良い。
この岩清水あたりからは岩の道が続き、雪道も残っていた。わざわざ軽アイゼンを取り出すのも億劫なのでそのまま登ってみたが、登れなくはない。だがあったほうが良いレベル。
岩の隙間から花々が逞しく咲いており、癒される。また花の名前が全然覚えられないから名前を呼んであげられない。
頂上。
最高の頂上。遮るものがなにもなく、オホーツク海、知床の湖や港、おそらく北方領土、おそらく斜里岳。先客もひと組4名で落ち着いている。この4名は羅臼平に泊まったようだ。羨ましい。
この日は風もなく、ただ、落ち着いた北海道の大地を感じることができた。クマに怯えながらでも来てよかった。
後からすごい勢いでちょっと先輩感のある夫婦が登ってきた。
「いや、サイコーですねー!羅臼岳も最高に格好いいし!」
お互いにそう言い合う。そう、最高なのだ。このご夫婦は名古屋から来ているようだ。翌日に斜里岳に登るらしい。同じルートだ、明日も会うのだろうか。
私が降り始めると颯爽と私を抜いていった。
「熊の湯温泉、オススメです!このあと是非行ってみてください!」と勧められた。後に調べてみると知床峠の方のようで、私が向かう方向とは異なるみたいだ。残念。
* * *
下山完了したのは11時30分。4時30分スタートなので休憩入れて7時間、休憩除いて約6時間、迷わなかったら5時間半といったところか。
木下小屋の脇で昼食を摂っていると木下小屋の仙人とその友人が現れた。最高の天候に恵まれて超絶格好いい羅臼岳を感じた、クマに会わなかったという報告をした。また羅臼平に泊まった方がいたようで羨ましかったと伝えた。
「次来たときはぜひ縦走してよ」と仙人。
「ありがとうございます、そうします!一人だと怖いので仲間と来ます」。
そしてこの日の宿泊地に向かうことにした(とはいえ泊まる場所を決めていない)。
(続く)
斜里岳はこちら。
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