羅臼に登った後、泊まる場所をはっきりと決めねばならぬ。
大方の方々がそうのように私も例に漏れず 羅臼→斜里→阿寒 と三座踏破の予定で、翌日は斜里岳だ。漠然ととまる場所の当たりはつけていたため、そこのキャンプ場に向かうことにする。今回はコロコロの中にテントと簡単なキャンプセット(といってもテーブルとチェア)を詰め込んできたのだ。
知床自然センターでクマスプレーを返却し、セイコーマートでハスカップアイスを買う。下山してから食べてばかりで、どうやら登山は本当にカロリーを消費しているらしい(それ以上に取ってしまうリスクがあるから登山は危険だ)。
ヴィッツを一時間ぐらい走らせて昨日と同じラルズマートに向かう。前日に適当に買ってしまったため、結局翌日の昼食等は買う必要が出ていたのだ。そして食事も簡単な調理ができる食材は持ってきていたのだがスーパーに来ると夕食分も買ってしまう。
私の哲学の一つに「在庫を溜めない」というのがあるのだが、その手段として「スーパーに行く頻度を減らす」「お腹が空いたときに買い物に行かない」「安いからといって買わない」としているのだが、こいつはなかなか難しい。
そんなことはどうでもいいのだが、結局ラルズマートで惣菜とお酒とヨーグルトなどなどを購入して再びヴィッツを走らせる。左側には斜里岳と思しき独立峰が浮かぶが、ちょうどその山の頭は雲をかぶっていた。こういう光景を見ると山というものが「雲製造装置」の機能をしており、山脈ともなれば「巨大雲製造装置」となっていることが想像に易い。
さて、ラルズマートも過ぎたのでここまでこれば目的地と定めた「清里オートキャンプ場」が近い。
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14時過ぎには清里オートキャンプ場についてしまった。アーリースタートの登山も考えものである。受付を済ませ、テントを張ることにする。そういえば山梨にも清里があるが、そちらとは姉妹都市とかそういうのなのだろうかとどうでもいいことを考えてしまう(なお北海道清里町の清里は「小清水」「斜里」の合成地名のようだ。清里なる地名は群馬新潟熊本にもあるようだ)。
このキャンプ場はコテージ、オートキャンプ、フリースペースと分かれており、入場料が500円かかり、そこに各グレードの金額がかかる。私の場合最安値のフリースペースを迷いなく選んだため1,500円。ここで倹約せねばピーチにお金を払って荷物を預け入れした意味がなくなってしまうという貧乏性な考え方もあるのが悲しい。
今回の旅の忘れ物にスパッツとUSBアダプタ(充電するときにコンセントに挿す部分)がある。モバイルバッテリーはあったのは幸いだったが、USBアダプタに関してはスマホやカメラの充電のこともあり百均ででも買おうと思った。しかし無駄になっても勿体無いためギリギリまで粘ることにした。スマホもWi-Fiを切って不要な時はエアプレーンモードにすることでバッテリーの消費はかなり抑えられる(現実にはUSBアダプタを使用できる機会に恵まれず、全4日の工程を通してコンセント差し込み口に出会う機会が空港のみだった)。
ここのキャンプ場は非常に整備されており、フリースペースも芝生となっている。ちゃんとしたキャンプ場なので炊事場もあれば水洗のお手洗いもある。どうやらシャワーはないらしい。
フリースペースには先客がおり、テントが2組で3張張られていた。登山用のコンパクトなテントで、私のモンベルステラリッジでも辱めを受けることはなく安心した。オートキャンプのコーナーにはスノーピークだかなんだかの巨大テントが張られている。そんなの興味ない、興味ないんだから・・・
炎天下とは行かないが、日光を遮るものがなく30℃以上に感じられる北海道の大地は今は快適とはいえないが、まぁ本州と比べれば許容できよう。汗も引かぬままテントをささっと張り、温泉へ行こう。
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近くの温泉は「パパスランドさっつる」なるところで、道の駅に併設されていた。クルマで10分ほどの距離にあるここの温泉は露天風呂に出ると牧場の匂いが広がる優雅な空間だ。なお、ここの道の駅には清里の名物の焼酎が並べられていた。この清里なるところは焼酎の蒸留所が観光地になっているらしいのだ。この辺りに来たら是非行ってみるとよさそうだ。私は行かなかったが。
外も30℃超えていると推定され全然ゆっくりする気にはなれないが、羅臼での汗をようやく流すことができ、この解放感がたまらない。
初夏の昼間の温泉はじっくり入るには厳しすぎるが、一度温泉に入って気持ちはリセットされ、先に進めるようになる気がする。
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パパスランドさっつるを終え、再び清里オートキャンプ場に戻ることにする。時刻は16時過ぎと気が付けばいい時間になってきた。しかし日は高く、体力さえあればまだまだ何かをするには十分な時間だ。
そうも言っていられず、清里オートキャンプ場でひと息着くことにする。平たくいって、あとは飯を食って寝るだけだ。というかやれることがそんなにない。
クルマを持っていないくせに買ってしまったヘリノックスのチェア、非常に軽くて便利だがテント縦走の時にはやはり邪魔だ。こういう時には本当に役に立つ。
こんな時のために本を持ってきておいた。TRANSIT 2022年の夏号は山特集だ。キャンプ場で読みたく、飛行機や自宅で読むことなく持ってきていたのだ。
優雅にクラシックなんか聴きながらTRANSITを開く。今回のTRANSITの山特集ではヨーロッパやアンデス、ヒマラヤの山々の特徴が書かれ、それぞれの文化、登山という文化、山に関わる方々のインタビュー、世界などなど、登山雑誌とは全く違う切り口で描かれており、山欲が掻き立てられずにはいられない。
日本の山小屋特集では踏み入れたことがある北穂高岳山荘といった拠点となる小屋が掲載されていた。テント泊にはテント泊の素晴らしさがあるのだが、山小屋の伝統や文化を体験することから離れていってしまっている悲しさもある。どちらが良いとかではないが、当面テントで行けるところはテントで臨んでいきたい思いがある。そしてこの雑誌を読むと海外に行きたくなる気持ちが疼く。コロナ禍が始まってすぐぐらいにメルカリで買ったバックナンバーのヒマラヤ特集、決してエベレストに登りたいとは思わないのだが、内容が非常に刺激的でエベレストロードを歩いてみたくなったのを思い出す。いつか会社の先輩に「今より若い時はない」と言われたことを思い出す。人生は何かをするには短すぎ、何もしないには長すぎる。この配分をうまくできている私の周りの友人達が羨ましい。現実は大好きな海外に行くこともままならず北海道に一人山に登りにきているという状態だ。のちに会社の後輩にも「禁断症状じゃないですかー」と言われる始末だ。
疲労からか、下山後からなんとなく感じていた頭が痛くなってきた気がする。いつのかわからないような適当な痛み止めを飲んでおく。ないよかマシだろう。
適当に料理をし、適当にお酒を飲み、適当につまみを食べているとようやくうっすら暗くなってきた。まだ20時ごろ。
「戦争広告代理店」なるきな臭い本を読む。この本はユーゴスラビア内戦にアメリカがそのPR会社を通して関わっていく様子が描かれている、自分の知らない世界が描かれている興味深い本だ。そもそもPR会社が何かわからなかったため知識も広がった気がする。
隣のテントはご年配な登山客らしく、明日は登るから早く起きるんだとかなんだか話している。三人できており、ちゃんと料理を作っているようで楽しそうだ。キャンプは集まった人数なりの楽しみ方があるのだ。
ようやく日も傾きかけてきた。斜里岳に臨むために眠ることにした。
(続く)
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