「うわーめっちゃ降ってるねー。カウントダウンこの中やるんだよね・・」
そんなことを言いながら、マチュピチュ村(旧アグエスカリエンテス)からクスコに戻るインカレイルから降りて駅から出ていく。
バックパックを前後に背負っている上、サンドイッチの入ったエコバックを持たなくてはならなかった。私が列車から降りたのが一番最後だったため、歩き出す友人につられて、背中にあるバックパックをちゃんと背負う間も無く歩き出していた。
まずは宿に向かう必要がある。私一人だったらおそらく歩くと判断するに違いなかったが、友人のことだからタクシーを呼ぶと思っていた。
maps.meで現在地と宿の場所を確認して、駅を出て雨が降るクスコの街に降り立つ。
「自分は全然いいんだけれど、タクシーにしなかったんだね」私は言う。
「うーん、人が多くて時間がかかりそうだし歩いても15分ぐらいだからね」
駅を出たところには市場であろう白いテントの屋根がいくつも見られた。帽子をかぶっており幾ばくか雨を防ぐことはできていたが、本降りといった雨でありあまり周りを観察する余裕はない。ただし歩道を歩くことができないほどの人がおり荷物の警戒を解いてはならない。その一方で雨の降る広場には人がいない。
人混みをかき分け、時に車道を歩いて5分ほど進むとアルマス広場に着く。アルマス広場はその明かりがオレンジ色ににじみ、爆竹が時に鳴る。
「すごい人だねー」
「もっと増えてくるんだろうなぁ」
そんな当たり前の会話をしながら宿に向かって歩く。アルマス広場を取り囲むアーケードの下は人でごった返しており、お酒を飲む者や子供を抱える者。一昨日に見た景色とはやはり異なっている。明らかに観光客をターゲットにしたミニマーケットや両替、土産物屋は20時を過ぎた今でも営業をしていた。こんな中でもツアーやマッサージの勧誘も忘れずにやってくる。
アルマス広場を対角線に抜けて急な階段を5分ほど登ると、我らが日本人宿「Casa del Inka」(カサデルインカ)に辿り着いた。
* * *
息を切らしながらカサデルインカに辿り着くと二日前にあった同じ年の日本人の女性が元気に声をかけてくれる。
「おかえりなさーい」
「ただいまでーす」
なんて適当なやりとりをしながら宿の人にも挨拶をする。
二日前は三階にあるシングルベッドが三つある三人のドミに案内されており、今回もそこに案内されるものだと思っていた。しかし、雨音がする階段を抜けて三階に登るとその隣の部屋のセミダブルベッド二つとシングルベッドひとつの部屋に案内された。三人組の我々であり、流石にこの状況はしんどい。
悩んでもしょうがないし、こう言うのは動かないと動かない。なので「ちょっと変更できないか聞いてくる」と私は言い残し、フロントに行って交渉する。
「ここのドミトリーのベッドが一つ空いているはずだから、そこにする?」と言ってもらえた。まがいなりにも英語ができてよかったと思う瞬間である。
「お願いしまーす」私は快諾した。
* * *
案内されたところはカサデルインカに入ってすぐにある5〜7人程度のドミトリー。私はその部屋にいた4人の日本人の方(日本人しかいなかった)に挨拶をする。ベッドが一つしか空いていないほど混雑していたが、旅の醍醐味はこんなところにもあると思っているため、むしろ大人数のドミトリーになったことは嬉しい。
「この部屋に移られたんですか?このどっちかが空いていますよ」先程の女性の方が教えてくれたのは一番奥にある二段ベッド。どちらも中途半端に使われていない様子であり、どっちが空いているかはわからなかった。
「その辺にいるんで聞いてみましょうか?」彼女は言う。
「その辺にいる男性の方ですよね?自分聞きますよ」と言ってロビーのソファにいる男性に挨拶をしてどっちのベッドを使用しているか尋ねる。
「この部屋になったんですね。じゃあ僕は上でいいですよ」
「ありがとうございます、じゃあ下段を使いますね」と言う。最初にあてがわれた三階のセミダブルベッドがある部屋にバックパックを取りに行き、再び部屋に戻る。
新たに当てがわれたドミトリーにあるソファあたりで荷物整理を始めると他の女性の日本人が部屋に戻ってきた。
挨拶を済ませると彼女は「下の段がいいなぁ」と呟いた。
相手が女性だったこともあり、「いいですよ、替わりますよ」と言って入り口近くのベッドの上段に交代した。
強まる雨音を聞きながら、荷物整理を続ける。すると電灯の脇から雨漏りが見られ始めた。
「え、雨漏りしてない!?」誰かがそう呟き、荷物をどかしたりと5名ほどの日本人はガヤガヤし始める。
気がつけば二転した私が寝る予定のベッドも雨漏りを始めているではないか。
「あのベッドのところも雨漏りしていますよ!」と誰かが言った。
しかしドミトリーから移りたくない気持ちがあった私は「(すぐに止むだろうし)大丈夫ですよ」と言ったが
「いやいやいや、流石に寝られないですよ」と気の利いた言葉に、確かに、と思った。
「危ないから電気消すね!」「桶とか必要じゃない!?」「フロントに行ってくる!」とそんな話をしているとついに誰かが部屋を出た。
* * *
ほどなく宿のスタッフの女性がやってきた。
「Oh, no」らしきことを言って桶を設置し始める。すぐにオーナーと思しきがたいの良いおじさまも現れた。
「こんな状況とは知らなかったの、ごめんね」
と言って処理を始めた。
「あのベッドのところも濡れてるからベッドを変えてあげて」
「そうね」と言ってスタッフが出て行った。
* * *
次に私に当てがわれたベッドはシングルルームのベッドだった。トイレもシャワーも、テレビまでついている。友人に譲ると言っても水掛け論になるだけだし、と思うことにして、一緒に来ている友人には申し訳ないがこういうところは要領よくやらせていただくことにする。
そして、ようやく荷物整理をし、シャワーを浴びてワイナピチュでの汗とクスコでの雨を洗い流すことができた。
(続く)
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