【剱岳(2)】剱岳登頂。剣沢キャンプ場から剱岳、一生もののそのスリリングな絶景。

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案の定、立山の夜は寒い。

床には銀マットと薄手のエアーマットと重ね、そこにシュラフカバー、スリーシーズン用シュラフ、シュラフシーツと重ね、さらにメリノウールインナーにTシャツ、ウィンドブレーカ、フリース、ダウンと重ねているが底冷えする。足元はダウンパンツも装備したらかなり良くなった。とはいえまだ19時台だ。

またしても問題なのが美味しい気がして飲んでしまうビール。美味しいはずなのだが標高の高いところだと結構キツく感じる。それを無理やり詰め込んだこともありなんとなく気持ち悪い。

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ここから夕景は望めないため、日が完全に落ちる前の18時ごろにはテントで横になってPodcastを聴いたりKindleで読書をしたりする。しかしそれも飽きて20時には就寝モードに入っていた。前日は夜行バスでほとんど寝られなかったためすんなり寝られると思ったのだが、どうやらそうもいかないようである。

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明日は目標3時起き、4時出発。

ここから剱岳山頂へのコースタイムが3.5h、戻りが2.5h。やや早く歩けたとしても休憩入れてトントンだろう。剣沢キャンプ場から室堂まで2.5h見ておけば良いだろう。剣沢でのテント撤収と休憩入れて1.5hを見ておいた場合10時間。3時半AMに出発しても14時に室堂か。東京に戻るのは21時ごろだろうか、それなら悪くないがそれより遅いと翌日の仕事にも差し支える。

早いスタートはしんどいが、気温が低い時間が長く水の量が少しで良いというメリットもある。ということで飲み物は1Lに限った。

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Day 0:新宿→夜行バス(→富山駅)

Day 1:富山駅→(鉄道)→立山駅→(ケーブルカー)→美女平→(バス)→室堂→剣沢キャンプ場

Day 2(実績):剣沢キャンプ場(3:36AM)→前剱(4:46)→剱岳(5:51)→剣沢キャンプ場(8:37)→室堂(12時前)→信濃大町→新宿(19時ごろ)

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久しぶりに父の夢を見た。

少年だった僕は父と山に来ているようだ。現実ともおぼつかない。母は今日はどこにいるのだろう。父の大きい手に引かれた。

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寒かったためか、浅い眠りだった。夢と現実を彷徨ってぼんやりしている。時計を見ると2時AM過ぎごろだ。まだ横になっていたい気がしたが思い切って外を見た。

雲一つない空には星々が所狭しと漆黒に押し込まれていた。季節のせいだろうか、天の川はどうやら見られないようだ。その代わりにテントもいくつかは幻想的に輝いている。剱岳の陰影が美しい。

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テントの朝はクラシックが合う。ワイヤレスイヤホンを耳に、あらかじめスポティファイでダウンロードしておいたG線上のアリアやラカンパネラなんかを流しながら、全然スッキリしない頭で僕は頑張って運んできた三脚とカメラを持って外に出た。外に出てみると寒いながらもなんとかなる気がしてきた。

適当に設定して何枚か写真を撮る。最適な写真の条件を探すのも面倒臭い時間帯だ。いや、星の写真はいつでも面倒臭い。2時過ぎとかはこの上なく面倒臭いというべきだろう。

ろくに設定せず写真を撮り、剱岳に向けて準備をする。

アタックザック(イーサープラス60のヘッドの部分。ヘルメットも挟めて便利)には必要最低限のものを押し込み、腹にはプロテインバーと温かいカフェオレを詰め込む。持ってきた朝食用のパスタは食べる気にならなかったが、代わりにバファリンを一錠流し込んでおいた。

目を覚まして冷静に考えると剱岳に登るこのタイミングで父の夢を見るとは不穏な気もするが、不思議と父に会えた気がして嬉しい気持ちになっていた。あくまでも私の心理の話でこれからの山行や未来とは全く関係がない。非科学的なことは信じないのがポリシー、ポジティブに考えよう。

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結局3:36に剣沢キャンプ場を出た。電池を変えたばかりのヘッドライトは思った以上に明るい。

剣山荘でヘルメットを被り、登山モードに入る。

前を歩く夫婦を抜いたり抜かれたりしながら無我夢中で登る。

「最高の天気ですね」

「本当に、雲ひとつない。去年立山三山の方行ったのですが、2日目は天気良かったものの初日はガスガスで。剱御前からの景色はあんなに綺麗なんですね」

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「今日は雷鳥沢とかですか?」

「いえ、今日中に東京に戻ります」

気難しい山人も多くいるが、朗らかな方も多い。そういう人とお話ができると連帯感が生まれ、登山が楽しくなる。

「振り返ってみてください、富山の街がめっちゃ綺麗ですよ」

「あ、本当だ」

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一服剱は適当に飛ばし、次に向かう。一服剱とはいい名前剱。山のポイント名はニセ巻機とか蝶槍とかなんて素敵な名前が多い剱。ここからがきっと大変になる剱。

無我夢中で登っていくと、いつの間にやら険しくなっていた。昨年アタックした奥穂高岳から北穂高岳へのルートを思い出す。しかし向こうはトラバースが中心であるが、こちらは崖上りだ。

まだ薄暗いし目的地がどれだかわからない。鎖場も現れてきたが、空がだんだん明るくなってきてヘッドライトが入らなくなってきた。

前剱で写真を撮り、ほとんど休むことなく先に向かう。

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5番鎖場。だんだん険しくなってきた。

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そこを超えるとこんな感じ。

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空がかなり明るくなってきて、鹿島槍の方だろうか、だんだん太陽が登ってきた。余裕があればのんびり写真でも撮りたかったが、どことなく焦る気持ちがあり、わざわざカメラを取り出して写真を撮るという精神的余裕はない。今思えばそんなに急がずに撮れば良かったと思う。

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7番鎖場、平蔵の頭(「ずこ」、と読むらしい)。

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鎖の他に杭があるものの、正直どこに足をかければいいかわからない。えいや、と足を持ち上げて杭と鎖止めへと足をかけざるを得ない。僕から見ればここが一番やりにくかった。

友人がこういうところを登るときはなんとなく仕事のことを考えてしまうと言っており、僕もそうだと思っていたが実際は仕事のことを思い出しはしなかった。何を考えていたわけでもない、フロー状態というやつか。のちにブログに書くならどんな文章になるかは頭をよぎっていた。そのほか、頭の中は今朝聞いたG線上のアリアが流れ続け、今朝の夢も思い出す。

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9番鎖場、カニのたてばい。どう登れっちゅうねん。と思いながらも実際行ってみるとなんとかなるものだ。

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アドレナリンが放出される。こういうときはお腹が減らないし喉も乾かない。疲れもしない。びっくりするぐらいの集中力だ。

繰り返しだが、あまり写真を撮られなかったのが悔やまれる。仕方ないから詳細はYoutubeとかで写真や動画付きで解説している人に譲る。フロー状態で写真はそんなに撮りたいと思わなかった。

鎖場を超え、またひとつ超え、そして頂上の祠が見えてきた。

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5:51AM、ついた。

ようやく、ひとつ、2022年の登山を収束に向かわせられる気がした。

そこには小さな祠があり、また達成感と共に胸に掲げられたり両手で持ち上げられたりしてきた「剱岳」と凛々しく描かれたプレートが何枚もある。

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なぜか思わず涙が浮かんできた。

360度、雲ひとつないパノラマ。(そもそも五竜岳に行くつもりで剱岳に決めたのは3日前だったのに)いつの間にか目標になっていた剱岳。

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百名山の中でも難易度が高く、神格化されていることもあると思う。一方、このコロナ以降の登山ブームもあってか、不穏なニュースもしばしば目に入る。クライミングの経験がほとんどない僕も無事登られて良かったと思う。

山頂には10人もおらず、その気になればゆっくりできる。僕はようやく水を飲み、羊羹を頬張る。最高に美味い。山には和菓子だな。

帰ったら自分にご褒美をあげよう、たまには甘やかしてあげよう。

2022年も暑かった夏が通り過ぎていく。

北アルプスは、直に、白く染まる。

来シーズンはどこに行こうかな。

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(実際、6日後に初雪があったようだ)

(了)

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