ざっくりとパタゴニア、イースター島、サンペドロ・デ・アカタマ、ウユニ、ラパスと巡ってきたが、いずれの地にも犬が放し飼いされているのが実に気になる。放し飼いこそされていないものの、NYの地下鉄に狼みたいな風貌の動物を連れて乗り込んできた奴を見た時もマジかよ、と思ったのはちゃんと飼い主が万全の体制でいるからいいかもしれない。しかしラパスでは晩御飯を食べようとのぞいたローカルなお店から犬が飛び出てきて僕の腕を甘噛みして走り去っていきやがった。長袖をしていたからよかったものの日やっとした。
パタゴニアで見た犬達は割と元気に歩き回り、僕にもまとわりついてきたが、サンペドロにいた犬は基本的にぐったりとしていた。ウユニで見た犬達も木陰でぐったりと沈む犬達が多かった。
* * *
日が傾いてきた。
やっぱり5時にコケコッコーと起こしておいて日が落ちるのが21時というのはどうにもバランスが悪くないか。
このニワトリの鳴き声、朝晩の涼しさと昼間の暑さ、未舗装の道、電波の悪さ。僕は何度もキューバをフラッシュバックした。
僕はCLUB SANDWICHなるハンバーガー屋さんで5USD相当ぐらいする高級なエンパナーダ(餃子の相似形の両手の拳の大きさぐらいある粉物)をテイクアウトし、サンティアゴの空港のラウンジから失敬しておいたROYALなるビールを片手にサンセットモアイを木の影から眺めていた。この一連の南米旅でエンパナーダを何度も食べてきたがこの島のエンパナーダが一番高いが一番うまい。
アルゼンチンのパタゴニアで食べたエンパナーダは餃子より二回り大きいぐらいで、中にはひき肉だったりチーズだったりが入っていてあげられていた。おつまみ的な存在としてちょうどよかった。
一方チリについてからのエンパナーダは前述のように両手の拳ぐらいの大きさがあって、揚げられているのか、生地もカリッとしている。これひとつで一食分になるぐらいの食べ応え。この島ではエビとチーズのエンパナーダを食べていたが、今回はチキンとチーズだ。
(なお、のちにボリビアのラパスで食べるエンパナーダは片手の拳ぐらいの大きさで、生地がよりパンに近く、中のチーズの量も遠慮がちだった。)
19時半ぐらいだろうか、日が傾いたな、というタイミングぐらいでアルミに包まれたエンパナーダを開く。
黄金色のそれは見るからに美味しそう。
ビールもプシュッとして「よっしゃやるぞー」というタイミングで黒い犬ちゃんがやってくる。おいおい、まさかこのエンパナーダを狙っているわけではないだろうな。
犬ちゃんは僕が右手で持つエンパナーダのすぐ横に顔をやる。僕のすぐ真横。非常に嫌だ。
反対側の方には現地の人たちだろうか、何人かが座って談笑しているが、そのうち一人が僕の方を見て「いいね!」ってジェスチャーしてきた。何もよくねーよ・・・
この島の犬ちゃんがおとなしいことはわかったが、顔をすぐ真横につけられるんじゃあ落ち着いて食べられるはずがない。
僕は犬ちゃんの反対の方を向いて、自分の口にエンパナーダを詰め込むことを余儀なくされた。なんとか襲われることなく、僕がエンパナーダを食べ終わると犬ちゃんはどこかに消えていった。
* * *
ようやく日が落ちる。
僕はビールを片手にモアイさんを眺める。彼の背後から差し込むオレンジ色の光は差し詰めハロで、彼がどれだけすごい重要な存在なのかを訴えかけてくる。
気がつけば周りの人たちも増えてきていて、お酒を飲んだり、音楽を聴いたりしている。
モアイさんにレンズを向けても、キメてくれはするものの、彼は何も言わない。だけど、無言で語りかけてくる。
いつかどこかで読んだ言葉、「僕たちはどこからきて、どこに向かうのか」。
このイースター島の文脈で読んだのかは覚えていないけれど、きっとそうだったろう。
この島は哲学させる島で、科学させる島だ。ジャレド=ダイヤモンドもきっとそうした。
この島に辿り着いたポリネシア人たち。彼らはハワイやニュージーランド、そしてイースター島まできたけれど、広大な南米大陸まで辿り着くことはできなかった。
自然を破壊しながら作られ、島の至るところに運ばれ、建てられたモアイ。
そして作りかけのものもある一方で、自然を破壊して食糧難になったことが原因なのか、倒され、破壊された。
そのモアイを見に世界中から訪れる観光客とそれを生業にする住民。
スペイン語が公用語と話される現在。
イースターアイランド、イスラ・デ・パスクア、ラパ・ヌイと三つの名で呼ばれるこの島。
モアイの前で、僕は今日も哲学する。
(了)
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