「どこでも旅に行けるとしたらどこがいい?お金のことは気にしなくていい場合」
よく聞かれる質問なのだが、経堂かどこかの旅仲間たちの集まりで聞かれたことを、なぜだかまだ覚えている。
聞いてきた彼にはこれより先にも後にも会っていないが、私みたいなヘタレ草食旅をしてだらだらブログを書いて自己満足するだけのつまらないヤツでは足元にも及ばないような、自分が現地の人になりきって主人公にしたようなインスタグラマーの旅をするエキスパート。インスタグラムはともかく、私とは異次元で尊敬した。
「パタゴニアっす」
いろんな返答パターンがあるが、何故か私は即答した。理由は単純に直線距離が遠いから、であるのだが。
* * *
ようやく。
旅に出たいと思ってから何年経ったかわからない。
私が旅に焦がれるようになったのは社会人としての真っ当な社畜ライフが始まってから。GWや夏休みのように仕事の隙間を縫って旅に出る。それが私のライフワークのようになっていた。
取れても一週間程度の小粒な旅。当初はそれぐらいのスパンで満足したが、当初だけ。すぐにそればかりのスパンの旅では満足できなくなったが、TJC勤務の私にはそれぐらいの旅を繰り返すのが社畜にはやっとだ。
一方で社畜としての生活も長くなり、社内では人材交流としてグループ会社に出向させられたり戻ったりもあった。保守的な社風でもあり、新しいことに挑戦していきたい中で直ちに物足らなくなった。
上記出向の時期とコロナの時期が重なっていた。
2020年2月ごろだかにCovid-19が日本でも大きな話題になり始め、その後に東京がシャットダウンだかロックダウンだかするんだかしないんだかと社会はパニック。私は2020年6月から2022年5月までグループ会社に出向し、帰任時にはCovid-19も収拾がついてきて海外旅行も解禁されつつあった。だが供給責任が大きい勤務先で、個人を含む海外渡航は禁止されていた。
そんな中で2022年9月から緩やかに転職活動を始めた。
リクルートダイレクトスカウト経由やりとりしていたエージェントからのご案内で3社ほど受けてみたが、1社はバイオ系のスタートアップでそういう世界線もありかなと思っていたと同時に、自分に求められる能力があるのか正直自信がなかった。ただもう実験とかしたくないなと思っていたこともあり、興味はあったが働くとなると微妙だった。先方から断られたのだが。
もう2社はシンクタンク。会社としてお金を持っていそうで業務内容も興味深かったが、片方は思っていたほどの報酬でもなく、業務内容にも物足らなさそうな印象を受けた。
最終的な1社が当初より興味があった。転職サイトに上がっていたわけではないのだが、当該エージェント経由でお話をいただいた。当時の勤め先からの帰りに歩きながらエージェントのお話を何度か聞いたことが今でも記憶に鮮明だ。業界的にも面白く、勤務地や数少ないながら前評判も悪くない。断る理由はない。年齢のこともあるし当面こんな機会はないかなと直感した。
そんなこんなで、どういうわけか円滑に進んでしまって11月半ばごろには第一志望のところへの転職先が決まっていた。
この過程において久しぶりにWebテストをやったのだが、その時に自分が本気モードで計算とかしたことがどうにも印象強く残る。
親への報告は、絶対ぶつぶつ言われると思ったこともあり、事後報告になってしまった。案外、無駄だと思ったのか、ちょっとしかぶつぶつ言われなかった。
しかし、極めて残念なことに、転職先は1月からきてほしいとのことである。他の転職者もいるようで1月はスタートのタイミングとしても心象良いので、やむを得ないが有給休暇18日間を余らせたまま、新たな会社にて働くことになった。正直、転職する前は3ヶ月とか休めると思っていたが、世の中全然甘くはないようだ。
とはいえ、ようやく三週間のギャップウィークが得られたのだ!
入社の確報を受ける前から、私はいてもたってもおられず、旅に必要な備品消耗品の購入を進めたりザックにパッキングしてみたりしていた。そしてちゃんと「入社確定です」という合図とともに、勝手に退職日をイメージして南米へのチケットを予約の段取りをした。
一応友人のいるアフリカ、コロナ禍で流れたインド・中東も選択肢としてはあったが、ちょっとだけ調べてすぐに南米にした。
というのも、アフリカは次のGWに仲間たちと訪れたい。インド・中東はコロナの情報が少なく(というか調べるのが面倒くさく)、しかも北半球であり今は冬である。
南米一択となった。
* * *
一言で南米と言っても広い。
三週間でどこまで行けるか。
日本から直線距離として一番遠いパタゴニアは入れる。ペルーは行ったことがあることを踏まえ、あと南米のハイライトと言われるところはイースター島、ウユニ塩湖、イグアスの滝。他にもガラパコスやエンジェルフォール等々あるのだが、優先順位をつけた場合、イースター島とウユニかなと判断した。動線も良さそうだ。イグアスの滝はルート組んでみて行けそうなら行こう。
どのような順番で回るか。
北からでも南からでも良い。パタゴニア、イースター島、ウユニ塩湖に行くのであれば新月がどこに来るのでも悪くない。
であるのであればアクセスと値段だ。片道ずつ航空券を取れれば柔軟に動けるが、あまりにも割高だ。期間もそんなに短くない。また旅はある程度は縛りがあった方が組みやすいこともあるため普通に往復券とする。つまり、ブエノスアイレス、サンティアゴ、ラパスの中で乗り継ぎが良く安い組み合わせを探せば良い。基本的に出入り口同じにはしたくないので6パターン。それぞれを調べた結果、ブエノスアイレスin、ラパスoutが最も安かったためそうすることにした。
よってルートは パタゴニア→イースター島→ウユニ となったわけだ。
行き先をパタゴニア、イースター、ウユニとしてみたが、それぞれ何日ぐらいいるのかよくわからない。できれば柔軟に動ける時間に余裕を持たせた旅を・・・と思って入口と出口だけ決めて中身は何も予約しないで行こう。
他の制約は以下とした。
■予算
「贅沢をしないで安全かつ円滑、快適に十分楽しめる金額。原則お土産は買わない」とざっくりとした。要は貧乏旅行がコンセプトではない。ブログであるような「安く行く方法」みたいなのは、長期のバックパッカーでもない限り、別に美徳でも技術でもない(いや、安い方がいいに決まっているのだが)。夜行バスに無理に乗らず時間優先でひとっ飛びとかそんなところだ。
■荷物
機動力重視。35Lのザックと大きめのデイバック(斜めがけ)。ただし三脚を持っていくこと。
■スマートフォン
特に何もしない。つまり元々使用しているdocomoのAhamoで使える範囲で使う。Wi-Fiがあると嬉しい。使えない時は潔くデジタルデトックスをする。
そんな感じで、ろくに何もせず旅に行くこととした。
* * *
実際に旅が始まるとやる気が出ないことがたくさんある。
特に調査予約関係はどうしても後回しにしてしまう。ちゃんと調べた方が効率的にモレなく回れることはしっかりとわかっているのだが、性格上無理なようだ。
旅に出る前にInstagramで仲間を作るとか情報を聞くとか、そういうのをやれる人を尊敬する。
また今思えば当たり前なのだが、以前の旅で「マチュピチュは予約が必要」とかそういうのも調べてくれていた友人にも毎回色々予約をしてくれる仲間たちに改めて感謝。
今回の場合、旅の中で会社を離れることの感傷に浸る予定だったが、それもやる気にならなかった。
というか、会社には仲間達も大勢いたため自然に感傷に浸るもんだと思っていたが、案外そうでもなく、つまり、新たな場所で働き始めた今でもちょっと気持ちに整理をつけない曖昧な気分のまま次の仕事をしていることになった。
一方で退職した日、啜り泣きながら歩いて帰宅したことは記憶しているが、何を思ったかは思い出せない。10年近くも働くと思うところがいろいろあったんだろう。最終出社日も帰宅して荷物の最終調整をしたらスパッと眠ることができた。
成田まで2時間、国際線なので2時間前を踏まえると10時ぐらいのエアーなのに6時ぐらいに家を出なくてはならない。成田空港は今回も遠い。
実際のルート組み。パタゴニアに行っているとき、自分に鞭を打ってイースター島にいく航空券を調べてみると12月19日→12月23日しかタイミングが取れない。事前に友人が「そもそも週3便ぐらいしかない」と言っていたのを思い出した。よってイースター島に行くとして全ての日程が決まることになった。
具体的には以下の旅程となった。
2022年
12/9 退職
12/10 成田→(飛行機)→NY(半日ぐらい時間ある)→(飛行機)
12/11 →ペルー→(飛行機)→ブエノスアイレス(寝るだけ)
12/12 ブエノスアイレス→(飛行機)→エルカラファテ
12/13 ロスグラシアレス国立公園ツアー
12/14 エルカラファテ→(バス)→エルチャルテン
12/15 フィッツロイの湖トレッキング→エルカラファテ
12/16 エルカラファテ→(バス)→プエルトナタレス
12/17 パイネ国立公園ツアー
12/18 プエルトナタレス→(バス)→プンタアナーレス→(飛行機)→サンティアゴ
12/19 サンティアゴ→バルパライソ→サンティアゴ→(飛行機)→イースター島
12/20 イースター島
12/21 イースター島
12/22 イースター島
12/23 イースター島→(飛行機)→サンティアゴ
12/24 サンティアゴ→(飛行機)→カラマ→サンペドロ=デ=アタカマ
12/25 サンペドロ=デ=アタカマ→アタカマ・ウユニツアー
12/26 アタカマ・ウユニツアー
12/27 アタカマ・ウユニツアー→ウユニの街
12/28 ウユニ→ラパス
12/29 ラパス
12/30 ラパス→(飛行機)→リマ→(飛行機)→ロサンゼルス
12/31 ロサンゼルス→(飛行機)
2023年
1/1 →羽田
最後のラパスがバッファーなぐらいで、あとは全く余裕がないことが判明した。
* * *
さまざまな思いを詰め込んだ、私の南米旅は、これまでの旅となんら変わることはなかった。
ただ、追い立てられるように、私の旅はするりと南へ進んでいった。
※今回旅に盛り込まなかったペルー。
私が旅に出る前の12月7日にペルー議会はペドロ=カスティジョ大統領の罷免。それに対する抗議が広がって12月14日にディナ=ボルアルテ大統領は緊急事態宣言を発出。観光客は足止めを食らうとか大惨事。なお、私は飛行機の乗り継ぎのため12月10日、30日とリマ空港を使用したがその際は問題なかった。
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