ミーム(meme)という概念がある。
「利己的な遺伝子」という名著を書いたイギリスの生物学者リチャード・ドーキンスさんが考え出した。「遺伝子」と同様、自己複製子する存在として、自己複製していく情報。
今回はこのミームに焦点を当てる。
ミームを理解する上での遺伝子(gene)
リチャード・ドーキンスは遺伝子(gene)を「自己複製子」と捉える。
我々を含めた生物(ときに非生物)を生存機械として媒介し、遺伝子は広がる。遺伝子は情報である。
基本的にAGCT(アデニン、グアニン、シトシン、チミン)の4種類のヌクレオチド重合してできたDNA(デオキシリボ核酸)であり、その四つの文字の順番(シーケンス)が遺伝子情報となり、それを元にタンパク質を作る。
非常に長く連なったDNAは対をなす。二重螺旋構造と呼ばれる状態。これはアデニンとチミン、グアニンとシトシンは水素結合と呼ばれる化学的な力で結合し、二本のDNA鎖が水素結合で安定化する。
長すぎるDNAは真核生物の場合はヒストンに折りたたまれ、染色体を形成し、核の中に収納される。
我々が思う、思わざるに関わらず、DNAは増えようとする、と考える。それは生物(ときに非生物)を媒介し、子孫の形として増え続けようとする。人間を除く生物はそれにほぼ抗えない形にプログラムされる。
つまり、遺伝子は生物を含めた化学反応で自身を増やそうとする「自己複製子」であり、「利己的」なのである。
ミーム(meme)とは
ミームは概念であり、それを理解することは非常に難しい。
ミーム(meme)[mɛːm]は模倣を意味するギリシャ語mimemeという言葉をベースに作られ、記憶を意味する英語memory、フランス語mêmeの意味も含有させられる。
geneに対応する語感を持つ響きを持つようmemeという言葉にしたとリチャード・ドーキンスは述べる。
人間の特異性は「文化」である。それは脳によって作られる。ファッションやキャッチーな音楽などもそれである。つまり、これらの考え方や複数の人間に受け入れられる考え方・行動様式などの文化は脳に寄生していると言い換えることができる。
これは「良い」として他の人に受け入れられる場合、それは「自己複製した」と捉えることもできる。脳に寄生する自己複製子なのだ。
遺伝子は突然変異によって変化し、それが優位性を持つと自然淘汰という形で広がっていく。ミームも同様、心理的魅力が勝るように脳の中で変異を起こす。アイディアという形で体現され、体現されたものは他の人の脳に寄生する。
ジーンは我々そのものに寄生する。ミームは我々の脳に寄生する。
ミームの例
あらゆるものはミームとして解釈されるが、ここでわかりやすい例として神とバーを挙げる。
多くの人に受け入れられる「神」
神という観念を考えてみる。
どのように生まれたのかは定かではないが、人の脳の中で変異を起こして生じたと考えることにする。自己複製の方法は口承であり、文字である。ときに音楽や儀式である。
神というミームはなぜ生存価を示すのだろうか。
神は文化的・心理的に優位であり、安定性を有しているためである。それは人が生活する上での悩みに表面的にもっともらしい回答を与えてくれ、心の拠り所となる。解決できないものは「神の力」なるもので解決しようとしてくれる。その意味で、非常に広がりやすい安定した存在なのである。
簡単に人の脳から人の脳にコピーされ、広がっていく。
世界のどこにでもある「バー」
バーはどこにでもある。ニューヨークやミュンヘンにもあるし、ミャンマーのヤンゴンやラオスのバンビエンにもある。
バーは人間に受け入れられるのだ。それは安定性を有しており、人の感性に訴えかける力を持っていることになる。
geneとmemeの対立
遺伝子に対抗できるものはミームだけ、と言っても過言ではない。遺伝子の自己複製しようとする動きを脳に寄生したミームがストップをかける。カトリックの聖職者などがそのわかりやすい例に当たるだろう。
ミームは遺伝子の自己複製を止めることができるが、その逆はない。ミームの媒介は脳であり、そのさらなる媒介は言語であり、文字であり、それは遺伝子にとって手の届くところでないためである。
進化の要件には多様性、自然選択、遺伝の三つがある。これらがあれば必ず進化は起こる。無意識によって起こるカオスによる設計。
geneもmemeも進化する。
インターネットミーム
ここから派生した概念として「インターネットミーム」と呼ばれるものがある。インターネットを通じてメディア・行動・コンセプトなどが広がっていくもので、プランキングなどがある。これを利用したバズマーケティングも行われる。
これは意図的な綴りの間違いがSNSなどを通じて広がっていくことなども該当し、気がつけば皆が知っている、というようなことになりうる。非常に面白い概念であり、説明である。
利己的なミーム
ミームは自己複製するという意味で非常に利己的で、危険である。当然複製されて広がっていくためには自然淘汰で勝つ必要があるのであるが、歴史的にはそれが生じて現在につながっている。
例えば西欧が始めた大航海時代。
新大陸にあった文明は滅ぼされ、ヨーロッパの価値観が広がっていくこととなった。つまり、ミームの自然淘汰によって一部のミームが姿を消し、より強力なミームが生き残っていったわけである。
ミームは危険である。
人間を介して利己的に広がっていき、優位でない文化は滅ぼされる。
ミームを持って利己的なミームを制御していかねばならない。
みんなが食べている遺伝子組換え食品はこちら。
ベースになっている考え方はダーウィニズムです(Wikipedia)。
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