ゾクっとする底冷えで目を覚ました。
啓蟄は随分前に過ぎて春分の日だっていうのになんて寒さだ。標高は600メートルとかいうからそれなりに高いことはわかっているが、どうしても25℃近くを東京で過ごした後だから鹿児島は暖かいに違いないとミスリードされている。
理想としては肌寒いぐらいの澄み渡る空気の中でだらだらお酒を飲みながら読書や星空撮影をしたいものだが、現実は温泉に浸かって適当にこしらえた夕食を腹につめて、お酒や読書もそこそこにするのが関の山だった。そもそも満月だとわかっていたため三脚すら持ってきていない。
しかし底冷えで目を覚ましたぐらいの今日はいい方だ。
前日から登るはずだったが登山口はガスで覆われており、テンションがグッと下がり直ちに撤退した。しょうがないから宮崎の方に適当にドライブをしたのだが、まぁ別にみたいところは人んちの庭にあるトトロぐらいしかいない。まぁ湖や東霧島神社も素敵だったのだが。
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適当にスーパーとホームセンターを歴訪してキャンプ場「霧島 緑の村」に早めにいくことにした。
ここ、「霧島 緑の村」は公営で、テントひと張1,500円、温泉320円とリーゾナブル。テントは15張程度張れるだろう。テントにクルマが併設できるゆるゆるスタイル。Wi-Fiもある。グラウンドや体育館も併設されており市民の憩いの場だ。薪は購入できるが食料はなさそう。近くにスーパーやコンビニもないが、まぁここに来るような人はクルマに違いないので問題なかろう。
管理人の方もとてもいい方で「あら、山行くの。明日早いでしょ。いつもはゲート閉めてるけど半分開けておくね」とゆるゆる。素敵なところだ。
さて、早めに着いたのはいいのだが、別にやることはない。そればかりか、雨こそ降っていないものの一桁台の寒さな上、風が非常に強く、火を起こすことすらままならない。屍に鞭、頑張ってつけた火に買ったばかりの椅子が倒れて一部燃えてしまうという最悪な事態まで発生した。カナシミブルーとはKinKi KidsやKSはよく言ったもんだ。
今回、Solo Stove Titanというギアを導入してみた。噂通り炎はあっという間に立ち上がっておもちゃには最適だ。軽いしバックパッキングキャンプやブッシュクラフトとかやりたい人にも良さそう。ただ調理に向くかは別の話。どこかの機会でレビューしてみよう。
ネガティブに考えても暗くなるだけ。温泉に入り放題なことと雨が降っていないことぐらいで十分じゃないか。
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そんな中で迎えた霧島の朝、寒さで目を覚ましていながら眠たい。時間は朝4時半。登山のテント泊でもこれぐらいに目を覚ますことが多いのは一番冷え込む時間だからだろうか。寒さと眠さ、要は自分自身と闘いながら温泉に行ってリフレッシュすることにした。
当然まだ陽は登っていないが、満月がまだ高めの位置にいて外は十分に明るい。つまり晴れているということだ。期待できる。
北斗七星とかカシオペアとか有名な星座がすぐにわかるぐらいには星も輝いている。場所によっては綺麗に星が撮影できたろう。星空の撮影は今後の楽しみにして、今回は山に全振りしよう。
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まずお風呂に入るという戦略は正しかったようだ。身体が温まると全能感が出てくる。これで昨日から3回目の入浴になるのだが、内湯にも関わらず湯船の外は結構冷えるためどれだけでも入っていられる。暖かくなると副交感神経が働き血管は拡張、気分も上がってくる。南国の人々が陽気なのも頷ける。私も陽気になりたい。
そんなことはどうでもいいのだが、まずは食事だ。テント泊の時は朝からドビュッシーやら適当なクラシックなんかを聴きながら準備を始める。朝からチルなわけだ。私は陽気になれそうにない。
前日に悪天候でやけになってスーパーで適当に買った霧島舞茸の残りがあった。前日の夜にハムと一緒にオリーブオイルで炒めてみたらそれだけで非常に美味しかったため、そいつを使ってスープパスタを作る。霧島舞茸は味が濃くて本当に美味しい。世の中のスーパーにはエノキやらエリンギやらなんやらキノコが所狭しと売られているが、やはり舞茸(と椎茸)だ。あの独特のコク、旨味がなんともいえない。スーパーで売られているキノコがどのように製造されているか、雪国まいたけの工場を一度見てみたいものだ。きっとキノコが大量に製造(栽培)されている姿を見たら食べたくなくなるのだろう。
そんなことはどうでもいいのだが、温かくて美味しい食事を摂ると一層身体が温まる。どんどんポジティブになっていく。楽しい。甘い紅茶っぽい液体を飲んで朝の摂食活動はよし。
さて、撤収だ。
今に始まった事ではないのだが、私は起動が遅い。準備に時間をかけたい訳ではない、むしろかけたくはないのだが、早めに準備を始めて最後まで悩むのがいつものことだ。テントに出たり入ったりしてシュラフやら食器やらをチンタラとスタッキングする。手際よくやれば30分もあれば撤収できなくもないのだが、後ろが決まっていないとなるとそんな急ぐ気にもなれない。しかも優雅にショパンなんか聞いているため捗るはずがない。前日に使った食器の煤を落としたりとやることは無限にある。
片付けとはなんとも生産性のないことか。エントロピーは増大するのが世の摂理だし、それを治めようとしたらエネルギーを使うことになり本末転倒だ。物理の法則は世の中を支配する。
そんなアホなことは言ってないで片付けをしよう。
マットを外に出して、そのマットに適当にギアを乗せたりヴィッツに詰め込んだりしながらテントを綺麗にしていった。いざテントのペグを外そうとすると、それを支えるテントの紐が今にも切れそうになっていた。前日の風がいかに強かったのか思い知らされる。テントが飛んで行かなくてよかった。
* * *
なんだかんだで起きてから1時間半、食事と片付けで1時間もかけてしまった。
だんだん夜は白んできして、周りのテントの豪華さに思い知らされる。周りは東京の自宅よりも広いのではないかと思わせるスノーピークやらのテントにタープ、クルマはエクストレイル。こちとらモンベルの山岳テントステラリッジ2人用に「わ」ナンバーのヴィッツだ。決して羨ましくない、羨ましくないんだとも。
星もほとんど見えないぐらい明るくなっている。さて、今日の第一の目的地、高千穂峰に向かおう。
(続く)
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