「久しぶりー」
久しぶりの人もそうでもない人もいるが、室堂で長野扇沢側からやってきた仲間ととぬるっと合流した。
今回のパーティは6人とちょっと多め。1人知らない若者Sがいたので挨拶をしておく。最近知り合った旅好きな山仲間Mの友人とのことだ。
彼だけ大学にでも行くようなリュックにテニスでもするような服装である。ウィンドブレイカーを羽織っている。
「これで防寒具全てです」
どうみても2,500メートルを超える山に行く格好ではない。
「あーこれは俺が悪いねー」
山仲間Mは全然悪そびれた様子もなく言う。山仲間Mの装備は今回もユニクロのTシャツに水着という玄人志向だ。実際彼の体力には先の涸沢で驚かされた。
若者Sは登山は初めてとのこと。チャリダーをやっていたりと、華奢な見た目ながら体力がありそうな雰囲気なので良いことにする。そんな若者Sはペットボトル包材の赤ワインを口にしていた。
また静岡からやってきた別の友人静岡Mはタイツが破れている。
「昨日安曇野のゲストハウスに泊まってて、今朝ピックアップしてもらいました。駐車場で転んで・・・スマホが動かない・・・」
南極に行ってしまうような静岡Mの破天荒さにはいつも驚かされるが、今回は別の意味であった時から驚かされた。
「今回ザック変えたんですけど、ウェストのベルトが壊れていて・・・」
静岡Mは以前パノラマ銀座を縦走した際は違うザックであったがその時も同じ部分が破損していた。
「まーとりあえず行きますか」
こんな愉快な仲間たちと共に、雷鳥沢から予定を変えて剱澤キャンプ場に向かうことにする。雷鳥沢は近すぎるし、剱澤の方が翌日雄山に向かう際にも効率が良いのだ。
AirBnBで買い出しに行くぐらいのノリで室堂ターミナルから外に出た。
* * *
外はガスが充満しており、周りがさっぱり見えない。雨が降っていないのが救いだ。先程レインウェアを着てみたが動きにくいだけだ。
「何も見えないね」
見えても5m程度だろうか。
「この後よくはなるんだよね。まぁ少なくとも明日は晴れるから、今日は剱澤までなんとか行ってご飯してゆっくりしましょ!明日景色を楽しむと言うことで」
そんな諦めモードで最短距離で剣澤キャンプ場に向かうことにした。
* * *
硫黄の匂いがするエリアを通り過ぎ、雷鳥沢と思しきテント場を抜ける。朝11時前からテントが張られている。私では思い付かないような高山の楽しみ方があるようだ。
小さな川を渡り上り坂に入ると、これまで平らな道または緩やかな下り坂だったが、登りに入った。
気がつけば我々6人は歩きが早い3人と遅い3人に分かれて歩いていた。登山慣れしているメンバーが両方にいるため問題ない。
大学へ行くようなリュックを背負う若者Sは歩くのが早い。
「ここの登り、明日じゃなくてよかったねー。正直、今回は立山だしなめてしました。思っていたより大変だねー」
初心者でも行けるぐらいのコースということで、皆ハードルを下げまくってきているため、ちょっとの登りでもへたりがちである。
登山中は半袖でも全然行けるがどうやら秋は確実に近づいているようで、紅葉が始まりつつ。
「お、青空だ!」
そんな急登と戦っていると雲が抜けた。前を歩いていたやや先輩なお姉さんも喜んでいる。テンションが上がる。
空が白いのと青のでは人の心理に与える影響が全く違う。不思議なものである。
* * *
急登を終えると剱御前小舎があった。この小屋は電話予約のみ。サービスが良いので有名なようだ。
私たち先頭3人は一足先に荷物を下ろして行動食を食べる。
安かったからという理由で若者Sは500gの柿の種を持ってきていた。みんなで食べたいという気持ちはわかるが、今の私の気分は甘い系なのでありがたく辞退することにする。
「オコジョだ」
我々ではない誰かが発した。我々3人もその声に釣られてその視線の先に目を移した。するとメガネケースぐらいの大きさだろうか、オコジョがこっちを見つめていて、すぐに走り抜けていった。残念ながらカメラに納めることはできなかった。
20分ぐらい経っただろうか、後続の3人も剱御前小屋に辿り着いた。思ったより早く歩けていたみたいで安心した。6人で休憩することにした。
天気もまずまずになってきた。ひと思いに、あと60分ほどという剱澤に向かう。
第一話はこちら。
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