加工食品を中心に、食品を守る仕組みはかなり体系化されています。製造工程のどこにどんなリスクが潜んでいて、どのような対応ができ、どうすれば解決できるのか。
現在導入が進められている手法にHACCPと呼ばれるものがあります。今回はそちらを紐解いていきます。
HACCPとは
HACCPはHazard Analysis Critical Control Pointの略、危害分析重要管理点です。
1970年代、アメリカの宇宙食の安全性を確保するために開発された手法で、この考え方をコーデックス委員会が「食品衛生の一般原則」の付属書として採用したことで世界中に普及。
日本では食品衛生法13条に基づく総合衛生管理製造過程承認制度においてこのHACCPシステムを採用。地方自治体や業界団体、民間審査登録機関などは独自のHACCPシステムを採用した認証制度を運用しています。
2014年5月に食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針が改正され、HACCPを用いて衛生管理を行う場合の基準が盛り込まれ、従来方式とHACCP方式の選択制が自治体の条例に反映されました。
アメリカやカナダなどの一部の業界では義務化されており、日本でも義務化に向けて動いています。
HACCPの構成
HACCPシステムは7つの原則と12手順で実施されます。
【手順1】HACCPチームの編成
HACCPを導入する際には当該製品・工程に十分な知識を持ち、組織全体をリードしていく力のある専門家チームを編成することが必要。
メンバーは品質管理、購買、製造など各業務のスペシャリストから構成され、安全衛生について幅広い知識と経験を持つチームを持つことが重要。これらのメンバーはトップマネジメントが選定し、トップ自らが活動の責任をもって進めることが成功に重要です。
リーダーはチームの取りまとめ、運営・推進をしていくとともにトップマネジメントに進捗・結果報告して全体のマネジメントを進めます。
【手順2】製品説明書の作成
原材料および最終製品の特性を明確にし、文書化。
原材料は原材料のほか、添加物、生物的・化学的・物理的な特性、組成、由来、製造方法、包装・配送方法、保管条件、賞味期限、取り扱い方法など。
最終製品は製品名、組成、生物的・化学的・物理的な特性、製造方法、消費・賞味期限、保管条件、包装、表示、配送方法、使用上の取り扱い方法など。
それぞれの特性を明確にすることで原材料や工程にはどのようなハザードが存在し、どのような管理をしなければならないか、最終製品はどのような管理レベルが求められているかを把握します。
【手順3】製品の用途、対象消費者の明確化
製品がその後、どのように取り扱われるのかを明確にします。そのまま消費される製品なのか、さらに加工されるのか。どのように保管されて加熱はどうなのか、誤った取り扱いの想定などを検討して文書化。
その製品を使用するのは誰なのか。乳幼児なのか患者なのか。ハザード分析の際の情報として活用します。
【手順4】フローダイヤグラムの作成
原材料の受け入れから出荷・顧客への製品引き渡しまでの流れを明確にした図。ハザード分析の基礎となるのでもれなく正確な作成が求められます。
全ての段階の順序、アウトソースした工程、原材料などがフローに入る箇所、再加工・再利用が行われる箇所、製品・副産物・廃棄物をリリースまたは除去する箇所などを明確にします。詳細に書くことでハザードの見落としが防止できます。
【手順5】フローダイヤグラムの現場確認
手順4で作成したフローダイヤグラムと実際の現場を比較して順序が正しいか、見落としがないかを確認。
【手順6】【原則1】ハザード分析の実施
手順2〜5までで得られた情報をもとにハザード分析を実施。受け入れから出荷・顧客への引き渡しまで、想定される全てのハザードを抽出・評価。できるだけ具体的に書くことが重要。
この中でPRP(Prerequisite Program;前提条件プログラム:手洗い、消毒、従業員の教育、衛生、害虫管理などの前提としての決まり)で管理されていて発生頻度が極めて低いと思われるものは除きます。
【手順7】【原則2】CCP(重要管理点)の決定
重要なハザードがPRPで管理できるものなのか、CCPとしてモニタリングして管理すべきものなのかを分類・決定。これはディシジョンツリーのような方法で、ある工程でしか当該ハザード管理ができない、もしくはある工程以降に当該ハザード管理をする方法がない場合、その工程がCCPになります。例えば最終段階の金属検査など。
ハザード制御の最後の砦とも捉えることができ、そのポイントを監視することで製品の安全性を確保するということになります。
【手順8】【原則3】許容限界(管理基準)の設定
手順7で設定したCCPの管理が許容できるか判断する基準であるCL(Critical Limit;許容限界)を設定します。例えば微生物制御のための殺菌工程がCCPとなっていた場合、しかるべき殺菌時間及び温度の値がCLとなります。これは科学的根拠に基づいた設定が必要です。
【手順9】【原則4】CCPのモニタリング方法の設定
CLを逸脱しないかのモニタリング。連続的に自動でデータを取るのか、特定の時間ごとに目視で確認するのかなど。
担当するものは十分にHACCPシステムや対応するモニタリング方法に対して十油分な教育訓練を受け、その重要性を十分認識した者である必要があります。
CLが逸脱した場合、どのように処理をするのかの設定。逸脱していた間に製造された製品はどうするのか、なぜ逸脱したのか、是正措置はどうするのかを明確にしておき、HACCPシステムの見直しが必要かも含めて考える必要が出てきます。
【手順11】【原則6】検証方法の決定
HACCPシステムが効果的に機能しているかを確認する活動。
HACCPプラン通りに製造したら
(1)安全な食品が製造されるのか(Validation:妥当性)
(2)HACCPプランは意図した通りに機能しているのか(Verification:検証)
(3)半年や1年ごとのHACCPの見直し(Review:評価)
を行います。この手順ではCCPの管理システムおよびHACCPシステム全体のチェックする活動であり、例えば加熱工程の場合、製品の微生物検査による殺菌効果の確認、温度計の構成などなどがあります。消費者のクレームのレビューも含まれます。
【手順12】【原則7】文書および記録の管理方法の決定
HACCPシステムは文書として見えるかすることで誰もが理解できる標準化されたシステムとなります。
文書化の対象としては一般的衛生管理プログラム、製品特性を表した文書、フローダイヤグラム、ハザード分析結果、HACCPプラン、CCP/CL設定根拠など。
一般衛生管理プログラムの活動結果、CCPのモニタリング結果などは記録として保持することが必要です。
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