化学性食中毒(2):有害金属(水銀・カドミウム・ヒ素・銅・スズ・鉛・セレン)

DSC09642 - 化学性食中毒(2):有害金属(水銀・カドミウム・ヒ素・銅・スズ・鉛・セレン) 食品

人体には金属が必要です。酵素反応で必要であるものもあり、活性中心としての役割を持っているものも多くあります。

しかし過剰摂取などによる中毒や毒物となるものも多くあります。天然にも微量存在するものですが、時として公害や犯罪の原因物質となることも。

ちょっと見てみましょう。

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水銀 Hg

水銀は常温常圧で液体の唯一の金属元素で、体温計や血圧計などに用いられます。水銀はアマルガム(他の金属との合金の総称)を作る性質があり、金の採取に用いられたりしてきました。

無機水銀・有機水銀化合物は高い殺菌作用を示すため、かつては医薬品や農薬として用いられてきましたが現在は毒性の強さからほとんど使用されていません。

水俣病

1956年の熊本から鹿児島の水俣病、1965年の新潟県阿賀野川流域のいわゆる第二水俣病があります。

いずれも工場廃液に含まれていたメチル水銀が原因で、食物連鎖における生物濃縮で魚介類を通して人体にも影響。胎児性水俣病の例もあったようです。症状は中枢神経性の障害。重大な場合は死に至りました。

外国での水銀中毒

1937年にイギリスの農薬工場で起こった神経症。水俣病と同じメチル水銀が原因であり、これが有毒であると報告したハンターさんとラッセルさんにちなんでハンター・ラッセル症候群と呼ばれています。水俣病もハンター・ラッセル症候群ということです。

1972年にはイラクでメチル水銀処理小麦により急性中毒が生じた事件があります。メチル水銀で消毒した小麦を飢餓に瀕し多尿民が食用に転用して400人以上が死亡。

その他、ブラジルアマゾン川流域やカンボジア、フィリピンなどでは金アマルガム法による金採取業者の水銀曝露が問題となっており、周辺の川の汚染も懸念されています。

予防対策

食品の中では魚介類が高め。1973年に当時の厚生省が総水銀として0.4ppm以下、メチル水銀として0.3ppm(水銀として)と定め、これを上回る魚介類の流通を禁止しています。

ただしマグロ類(マグロ、カジキ、カツオ)と内水面水域の河川産魚介類、深海性魚介類(メスケ類、キンメダイ、キンダラ、ベニズワイガニ、エッチュウバイガイ、サメ類)については規制対象外です。なお湖沼産魚介類は対象内。

カドミウム Cd

カドミウムはポリ塩化ビニルの安定剤、プラスチック製品やガラスの着色料、電池の電極、合金成分、顔料などに使われます。最近はその毒性から減少傾向。

カドミウムは亜鉛や鉛の精錬時の副産物として得られ、亜鉛鉱山などの周辺ではカドミウムによる環境汚染などが生じ得ます。

カドミウムによる急性中毒は稀で、慢性中毒が問題となります。特に腎臓障害が起こり得、多尿、アミノ酸尿、糖尿、タンパク尿が見られます。腎障害に伴うカルシウムの再吸収が低下し、骨軟化症にもつながります。

イタイイタイ病

富山県神通川下流で発生したイタイイタイ病。1955年に原因不明の奇病として学会に報告され、神通川上流の亜鉛精錬所から排出された鉱廃水中のカドミウムが原因とわかりました。

腎障害と骨軟化症の両方が見られ、大腿部や腰の疼痛を伴うため、イタイイタイ病と名付けられました。

予防対策

日本人のカドミウム摂取に関与しているものはコメ。基準濃度が0.4ppm以下となっています。通常は0.1ppm未満です。

スルメイカの肝臓では6.6〜96ppm、帆立貝の中腸腺では1.3〜16ppm、ベニズワイガニの内蔵では2.3~23ppmと軟体動物や甲殻類の内蔵では高めです。

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ヒ素 As

ヒ素は農薬や殺鼠剤、木材防腐剤として広く用いられていました。現在では亜ヒ酸が急性前骨髄球性白血病の治療薬として、ガリウムヒ素が半導体素子の材料として使用されています。

しかしヒ素は毒物の代表とされ、自殺や他殺に用いられたり、中毒事件を起こしたこともあります。

ヒ素を用いた事件

ヒ素混入ビール事件(イギリス)

1900年に発生。患者6,000人、約70人が死亡。原因はビール酵母の培養中に添加した転化糖(ショ糖を酸または酵素によって加水分解して得たブドウ糖・果糖の混合物)を製造する際の硫酸にヒ素が混入していたため。

森永ヒ素ミルク事件(日本)

1955年に発生したヒ素ミルク中毒事件、世にゆう森永ヒ素ミルク事件は患者が全て乳幼児で131人の死者を出した、日本最大の食中毒事件です。原料乳に安定剤として添加した第二リン酸ナトリウムに不純物として存在していたヒ素が原因。ドライミルク中のヒ素濃度は15〜45ppmもありました。

和歌山毒入りカレー事件(日本)

1998年、夏祭りで発生した事件。意図的に混入されたヒ素が原因で、67人が中毒症状、4人が死亡。急性ないしは亜急性で、咽頭部乾燥感、腹痛、嘔吐、下痢、ショック症状、心筋障害などの症状。

その他の公害

地下水の無機ヒ素汚染による健康障害が、インド、中国、バングラディシュなどのアジア諸国で1990年代から見られるようになってきています。日本では宮崎県土呂久鉱山などの周辺。慢性中毒によるもので、黒皮症、手足の角化症、皮膚ガンなどが症状として見られています。

予防対策

農畜産物ではppbオーダーですが、魚介類ではppmオーダー。甲殻類や肉食性の巻貝などではヒ素ミルク事件のドライミルクの含量を超えるものも。これらに含まれるものは有機態で、尿として排出されると証明されています。そのため食品衛生としての問題ないと考えられています。

一方、ひじきは無機ヒ素がおよそヒ素の半分を占めているため、イギリスやカナダでは摂食を控えるように行政指導されています。しかし、湯戻しなどの過程でかなりのヒ素が除去されるため、健康上の問題はないと考えられます。

銅 Cu

調理器具、電線、農薬などに広く利用されています。

また生体内で酵素の活性中心になるものもあり、必須元素となっています。欠乏症としては貧血、心筋症、神経障害など。

調理器具の表面には緑青と呼ばれる錆ができることがありますが、非常に弱い毒性です。基本的に問題ないと考えられていますが、pHの低い炭酸飲料、乳酸菌飲料、果汁飲料や食べ物を金属容器に入れると銅が溶け出しやすくなります。

銅が食品に移行して過剰摂取となる場合、頭痛、めまい、吐き気などの中毒症状があります。

スズ Sn

ブリキ、ハンダ、メッキなどの用途があります。

トリブチルスズなど有機スズ化合物は貝類や藻類が付着するのを防ぐために船底防汚剤、漁網防汚剤などとして用いられてきましたが、内分泌かく乱物質であることが疑われて使用が禁止となっています。

缶詰のメッキにスズは使用されますが、pHが低い食品に用いるとそのスズ含量が高くなります。2,000ppmぐらいになることもあり、嘔吐や吐き気、腹痛などの胃腸障害を起こした事例も。

現在は溶出を抑えるために樹脂コーティングされた缶が使用されています。

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鉛 Pb

鉛は融点が低く加工しやすいため、はんだ、鉛蓄電池、顔料など広い用途があります。

鉛中毒ではヘモグロビンの合成阻害による重度の貧血や神経系障害、大腸の強い痛み(鉛疝痛)。

ヨーロッパでは鉛に汚染されたワインや小麦などの食品による中毒がいくつか報告されていますが、日本ではありません。明治から大正にかけて鉛含有の白粉(おしろい)により母乳が汚染され、それが原因で乳児が重篤な鉛中毒を発症したことがあります。

セレン Se

セレンは光電池や顔料などの用途があります。

肝臓や赤血球に含まれるグルタチオンペルオキシダーゼの構成成分で、生体にとって必須元素です。欠乏症としては中国の克山病(ケシャン病)と呼ばれる心筋症が有名。

中国ではセレンを高濃度に含む植物による慢性中毒、アメリカではサプリメントによる亜急性の中毒例が知られています。中毒症状は脱毛、爪の変色、胃腸障害、倦怠感など。

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