例えば、旅の醍醐味の一つは出会い。
とは言いながら、一言で出会いと言っても色々ある。例えば、成田空港でベイルートに向かうというツアーのおばちゃんにおすすめの旅行先で昔のシリアを勧められたのも出会いだし、例えば成田からドーハに向かうカタール航空の中で、パリに向かうという隣り合ったチュニジア人と「チュニジア?全然危なくないよ」って話したのも出会いっちゃ出会いだ。
ヤンゴンに行って、7年前に私の実家に高校生留学生として受け入れたミャンマー人に会うことになり、串焼きを一緒に食べたのだって大切な出会いだ。
だが、旅での最も印象深い出会いといえば、初めての一人旅の時にヘルシンキであった日本人女性だ。その後の付き合いが長く続いたとかその人に惚れてしまったとかそういうの意味ではなく(多少はあるのかもしれないが)、価値観とかそういった側面で印象に残っている。
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「ロシアに行かない?」
「いやー、パスポートないしやっぱりええわ」
案の定、最も中の良い友達に一蹴されてしまった。別に私にとってはロシアである必然性はなかったのだが、その友人がロシアが好きということで誘っていた。誘うにあたって彼が興味を持っているというウラジオストクのツアーも調べたし、初めての海外ということでサポート情報は送っていたつもりだ。
こんなところから始まっている。
私としては大学生の時ぐらいからずっと海外旅行にいきたかったのだけれど、実家がバタバタしていて家計の状況がよくなかった上に、その時には他にも十分楽しいことがたくさんあった。振り返ってみれば非常にもったいないのだけれど、海外留学に踏み切ることがないまま大学を卒業した。そして大学院生の時も実りのない実験に追われて、海外旅行に行こうなんてほとんど考えなかった。研究室の仲間とドイツに行ったことや卒業旅行でトルコに行ったことは、その意味でも非常に重要だったと思う。
そして会社員になってからこの友人をロシアに誘って断られた。同性の会社の同期にはホーチミンに誘って断られている。
「私、フィンランド行ってくるわ」
会社の同期の女の子がランチの時にそう言った。
「一人で行くの?」
「うん」
この時の自分には一人旅なんて全く考えなかった。だが、女の子一人で行くのかー、と思ったのが正直なところだ。これまで私の周りには一人旅しているやつなんていなかった。だが考えてみると留学に行く人は一人で行ったりしてるわけだし、他のやつにできて俺にできないはずがない。そもそも人生年齢的に最も壮年とも言える時を逃したら一人旅なんていけないのではないか。
やはり度胸が出なくて悩んだが、ゴールデンウィークを浪費しても仕方がない。実家でグダグダするつらさは何度も体験している。
そして歯切れの悪い友人たちを待っていては一生海外に出られないのではないか。
なぜか、そんな思いがふつふつと湧いてきて、眠れなかった夜があることを覚えている。その日の夜にHISでヘルシンキ行きの往復航空券を抑えた。13万ぐらいだったか。
ヘルシンキを選んだのはその会社の同期が行くというから正直ちょっと安心というのが当初の理由だった。この理由は当然なかったことになるのだが、恥ずかしながら最初はその理由があった。そしてヘルシンキなら安全だろう。
26歳の私はホステルというワードも知らなかったし、ロンリープラネットを見たこともなかった。知ったところでホステルは怖いと感じていた(今でも多少は感じている)。そういった思いも、全て忘れて行ってしまうのが旅に慣れるということであろう。
「あー、俺もヘルシンキに行くことにした。その先は不明」
そんな感じでその同期には伝えていた。正直嫌がられた感じが伝わってきた。今後の人間関係、まずいなーと思った。そんな思いを持ったままぼーっとGoogleマップを見ているとラトビアの文字が目についた。
ラトビアに行けばエストニアまでバスでいけて、そこからヘルシンキは船で行けるだろう。
地図を見ていてそう思うようになった。
* * *
そんなこんなでようやく一人旅を決心した。過保護な親に一応許可を取ったり、地球の歩き方を読んだり、あとは漠然とネットサーフィンで情報を集めたりしていた。
ルートは漠然と決まった。具体化せねばなるまい。
とりあえずヘルシンキはやることがなさそうなので一泊ぐらいか。ラトビアをメインに持ってこよう。三泊ぐらいしておこうか。あとはエストニアに一泊して、まぁそんなもんか。
今思えば非常に短いスパンであり、勿体無い旅行だったと思う。しかし、ゴールデンウィークだったこともあり、前後1日短縮することで航空券のコストを13万ぐらいに抑えているのでよしとせざるを得ない。そして何よりも十分濃密であり、物足らなかったなぁと思う程度でちょうど良いのかもしれない。
それぐらいの考えなもので、具体的なルートは決めなかった。とりあえず行けば色々見るところがあって、ホテルとバス・船は押さえたからなんとかなるだろう。
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当時は山に登る趣味もなかったので普通の服を普通のハードのスーツケースに詰めた。準備はひと月ほど前から適当に始めており、思い立ったものをスーツケースの前に適当に放り投げて行くという荒っぽい手法を採用した。
まず、日数分の下着がいるだろう。服は適当で良いだろう。北欧・バルトだし防寒具は必要だろう。Kindleペーパーホワイト、カメラ二台、パソコン(出番は全くなかった)、パスポート、財布、スマートフォン、モバイルバッテリー。通貨は全てユーロだし、成田で変えれば良い。タオルや選択小物は今回は良いか。あと噂に海外で人気と聞いた抹茶フレーバーのキットカット。
この時の旅からボーズのノイズキャンセリングイヤホンを奮発して購入した。本機は赤坂のビックカメラにたまたま立ち寄った時に買ったと記憶している。3万円と非常に高額であったが、値段相応、これが非常に優れもので今は二代目を愛用している。当初はヘッドフォンを買うつもりだったが、10時間以上飛行機に乗っていたら蒸れるよなぁと思いイヤホンを選択した。
そんなこんなしているうちから、旅は始まっているのだ。
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成田空港。
残念ながら空港で何があったかはしっかりとは思い出せない。旅の回数を重ねて行くうちに、どの思い出がどの旅での出来事だったかわからなくなってしまっている。
自分のことだから、倹約の意味で京成線だかスカイアクセスだかで安価に成田空港に行って、特に問題が怒らないまま早すぎる時間に空港について、やることがなくて免税店をひと通り見て、やっぱりすぐ飽きてぼーっとして、いつの間にか出発して、という流れだろう。
空港では寂しい思いをしたのは間違いがない。
この時に限ったことではないのだが、ゴールデンウィークであり、やはりカップルや友人、集団で旅行に行く人ばかりが目につき、一人でいるのは心苦しい思いをした。
しかし飛行機に乗り込んで見ると、案外一人で乗っている人が多く見受けられた。まぁ友人同士できてバラバラに座っているだけかもしれないのだが。
こういう経験を経て、空港や飛行機で知らない人に話しかけることに慣れていく。
(続く)
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