いろんな食のリスクを書いてきてみましたが、まだまだあります。今回はBSEと鳥インフルエンザ、カビ毒をご紹介します。
BSEとは
BSEはBovine Spongiform Encephalopathy(牛海綿状脳症)の略称で、牛の病気です。
異常プリオンタンパクが神経組織に蓄積して脳がスポンジ状になり、異常行動や運動失調などの中枢神経症状を呈して死に至る伝染性の病気です。
同様の病気として、ヒツジやヤギのスクレイピー、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が知られています。これらは伝染性海綿脳症(Transmissibe Spongiform Encephalopathy: TSE)またはスポンジ病として知られています。
1996年にイギリスで変位性のクロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)とBSEの関連性が示唆されています。イギリスでは18万頭以上のBSEが発症、vCJD患者が180人ほど確認されています。日本では2001年に初めてBSE牛が確認されて以来、36頭のBSE感染牛、1名のvCJD患者が発生しています。このvCJD患者はイギリスで感染したと推測されています。
全世界では28カ国19万頭のBSE牛が発生。これはBSEプリオンで汚染された肉骨粉を飼料としていたことが原因とされています。
生産段階での対策
BSEプリオンの国内侵入阻止目的のため、肉骨粉などの輸入が禁止されています。またBSE発生サイクル遮断のため、肉骨粉などの牛用資料への利用禁止、牛トレーサビリティ制度が運用されています。
屠畜場での対策
特定危険部位の除去
特定危険部位(Specified Risk Material: SRM)と呼ばれるBSEプリオンが蓄積する部位は食品として利用されることが禁止されています。
月齢によって異なりますが、全月齢で扁桃および回腸遠位部、30ヶ月齢を超えた際には頭部(舌・頰肉・皮は食用可)、脊柱および脊髄が該当します。これらの部位は焼却されており、特に30ヶ月齢超の牛のSRMのうち、脊柱を除く部位は特定部位として焼却が義務化されています。
BSE検査
以前は全ての屠殺される牛はBSE検査の対象でしたが、2017年4月に廃止。ただし全ての牛は屠殺前後および解体後の酸段階で食用として的確かどうか検査を受けており、必要なものはBSE検査が行われています。
輸入牛肉対策
BSE発生国の牛肉は輸入が禁止されています。輸入再開には国別に実施される食品安全委員会の科学的なリスク評価(食品健康影響評価)により「人の健康影響は無視できる」と評価されることが必要。
また輸入条件として30ヶ月齢以下、SRMが除去されていることなどがあり、適合しているかどうか検疫所において検査されます。輸出が再開された国については厚生労働省担当者の現地視察によって確認されています。
BSEの現状
日本では2003年以降に出生した牛からはBSEは確認されておらず、国際獣疫事務局(OIE)総会で2013年に「無視できるBSEリスクの国」と認識されています。
一方、8歳以上の高齢の牛には従来のBSEとは異なるBSEが確認されることがあります。これに関しては若い牛に関しては無視できるとされています。
鳥インフルエンザ
A型インフルエンザウイルスによる鳥類感染症の総称。
家畜伝染病予防法では病原性が高いものを「高病原性鳥インフルエンザ」、病原性は低いが変異して病原性が高くなる可能性があるものを「程病原性鳥インフルエンザ」、それ以外を単なる鳥インフルエンザと呼びます。
国内において、家禽の肉や卵を食べて鳥インフルエンザに感染した事例はありません。食品衛生委員会は、「受容体が鳥とヒトで異なる」「胃酸で不活性化される」としてヒトが感染する可能性はないとしています。あくまでも「食べて」、です。
カビ毒
カビ毒はカビの二次代謝産物で毒性を示すもので、カビ毒を総称してマイコトキシンと呼びます。カビ毒による健康障害を真菌中毒症マイコトキシコーシスと呼びます。
アフラトキシンはアスペルギルス・フラバスなどアスペルギルス属の数種のカビが産生する毒成分で、急性毒性だけでなく、強力な肝発がん性を示すことが知られています。アフラトキシンはB1、B2、G1、G2、M1、M2など約20種類が知られています。アフラトキシンを産生するカビは熱帯〜亜熱帯地域の土壌に生息しており、日本では九州南部から沖縄にかけて検出されています。
アフラトキシンは哺乳類、鳥類、魚類などの動物に急性毒性を示します。汚染された穀物などの摂取による急性毒性事件も多く知られており、症状は嘔吐、腹痛、黄疸、肝肥大、昏睡で、死亡例もあります。
1960年にロンドン近郊で10万羽以上の七面鳥のヒナが突然斃死する事件が発生。当時は原因不明でしたが、その後の調査でブラジルから輸入された飼料用ピーナツを汚染していたアスペルギルス・フラバスというカビが発生する毒成分が原因であることが発覚。
他、1974年にインドで患者397人、死者106人。2004年にケニアで患者317人、死者125人。
予防対策
アフラトキシンは耐熱性が高く、270〜280℃以上の加熱をしないと分解しません。
食品中の総アフラトキシンは10ppb、乳中のアフラトキシンM1に対しては0.5ppbという規制値が定められています。
日本で生産される農産物の汚染は見つかっておりませんが、輸入されているナッツ類や香辛料では規制値を超える量がしばしば検出されています。
赤カビ毒
赤カビはフザリウム属のカビ(フザリウム・グラミネアラム、フザリウム・クルモラムなど)で、赤色の線毛状のコロニーを作るものが多いためそう呼ばれます。
土壌中に広く分布しており、麦類や豆類を中心とした農作物に感染して赤カビ病を引き起こします。
赤カビ毒はフザリウムトキシンと称され、T-2トキシン、ニバレノール、デオキシニバレノールなどの成分が知られています。
有名な中毒事件は1940年代、旧ソ連内で発生した食中毒性無白血球症(ATA症)。汚染されたキビ・ライ麦・小麦が原因で、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、造血機能障害、免疫不全などの中毒症状が見られて患者の30〜80%が死亡しました。原因物質はT-2トキシンと見られています。
日本では戦後の食糧事情が悪い時に赤カビに汚染された小麦粉を原料としたすいとんやうどんなどが原因で中毒が多発しました。1958年以降の中毒例はありません。
デオキシニバレノールは小麦に対して1.1ppmという規制値があります(見直し中)。これは低濃度でも長期摂取した場合に成長抑制、体重低下、免疫機能抑制など深刻な慢性毒性が知られているためです。
その他のカビ毒
りんごに付着するカビの毒成分としてパツリン。これはりんご果汁や清涼飲料水原料用りんご果汁のパツリンについて0.05ppmという基準値が設けられています。
またバルカン腎症に関連しているオクラトキシンAも知られています。バルカン腎症はルーマニアやブルガリアなどで流行していた腎不全と尿路がんに由来します。
他には黄変米毒もカビ毒が原因です。ペニシリウム属のカビが産生し、神経障害や真菌障害を起こします。1938年に台湾産黄変米から見出され、1953年には東南アジアから輸入された米から大量に見つかりました。
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日本の食品制度はしっかりしています。
ですが一般的な知識を持つことも自分の身を守る意味ではとても大事ですよね。
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