2019年最後のシャワーを早々に浴びて気持ちをリセットした私は、旅の先輩からご教示いただいたイベントの準備に取り掛かる。
まず、三階のキッチンに向かう。
私の場合、最長でも10日程度の海外に限られているため、日本食が恋しくなることがないし、恋しくなる気持ちもよくわからない。わざわざ国外に出てまで味噌汁を飲みたいともカツ丼を食べたいとも思わない。
そんなことを思いながら、本当に喜ばれるかもわからない年越し蕎麦の準備を始める。
ラッキーなことにキッチンは空いていた。かろうじで屋根がある程度のバルコニーにあるキッチンにて鍋を準備する。コンロはライターがないと着火しない仕様のようだ。まずコンロの栓を回してガスの量を音で調整しながら、コンロの横に置いてあるライターで着火する。
ぼふ。
なんとなく察してはいたが、物凄い勢いで火がついた。
火がついたのはいいものの、キッチンの蛇口からは水が出ないではないか。
とりあえず不十分ながら水が残ったヤカンを火にかけ、友人とともに一階の新たに当てがわれた私の部屋から鍋いっぱいに水を汲んできてもらう。人に任せてばかりでは悪いので私自身も鍋を持って下る。雨で濡れた階段を下るのはちょっと怖い。
「年越し蕎麦作るから来てくださいね!」
誰も来なかったら寂しいので通りすがりに声をかけた。
三階に戻り、ヤカンの中の沸騰したお湯をポットに入れる。しかし、ポットに湯を入れると同時に注ぎ口からお湯が出てきた。謎の仕様である。考えても無駄なので直ちに諦めた。
* * *
そんなこんなで粉末の麺汁を小鉢に分けた。
乾燥ネギとユズも用意しており、そちらの開封と準備を友人に任せた。それっぽくきれいに専用の皿に少量盛り付けられた様子は、大勢で使うことを想定していた機能美を求める私にとって謎でしかなかった。
キッチンにはザルがなかったものの、もう一人の友人は乾麺を二袋茹で上げ、フォークなどを用いて手際よくよそいはじめる。頼もしい。
さて、準備は整った。
私は入り口のフロアにくだり、
「年越し蕎麦、食べましょう!」と声をかけた。
* * *
十人近くいたこともあり、あっという間に蕎麦はなくなってしまった。お酒の準備をする余裕がなかったのが悔やまれる。
蕎麦に関しては長期の方ばかりだったこともあり、きっと喜んでもらえたと信じている。
そう、どこにいても文化は文化なのだ。
* * *
食器や調理器具は私が手を出す間も無く洗っていただけており、感謝しかない。
お互いのことを何も知らない日本人たちが、2019年の最後に「カサデルインカで年越し蕎麦を食べた」と思い出をシェアできたことは何かの瞬間に思い出すだろう。
オレンジ色が雨ににじむクスコの街には、時折爆竹の破裂音が鳴り響く。
先ほど、宿のスタッフの女性が「今年のカウントダウンは大雨。悲しいからもう寝る」とジェスチャー付きのスペイン語で言った。
たとえ雨は降ろうが、もうすぐカウントダウン。
23:30。そろそろ、アルマス広場へ行く準備をしよう。
(続く)
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