ジョージアで宿泊した有名な日本人宿「コンフォートプラス」は長期の旅行客が多く、そこで仲良くなることはできなかった。そんなことも往々にしてある。コンフォートプラスはトビリシの中央になく地下鉄に乗って20分ほど郊外に行かねばならない上、駅から離れている。日本人宿でなかったら選ばれないだろう。
それが理由ではないのだが、カズベギに向かうためにコンフォートプラスから撤退して次の目的地であるカズベギに向かう。時間に余裕があるのであればジョージアの左上にあるメスティアに行きたいところなのだがそれは早々に諦めた。きっとカズベギも楽しい。
トビリシの北のバスターミナルであるDidube駅に降り立つとそこは活気に満ち溢れていた。印象としてはトルコだ。つまりカオスで欧州的な秩序は感じられない。同じ印象はアゼルバイジャンからトビリシのバスターミナルに着いた時、そしてトビリシの中央駅に着いた時も同じだったのだが、ここで決定的な印象となった(トビリシの中央部が極めて洗練されていることは後日わかる)。
そんな無秩序なバスターミナルを一周してみてもどれが正規のバスか全くわからない。英語が通じないから「カズベギ!」という言葉以外に説明ができない。だから「カズベギ!」と聞いてみるもののあっちだこっちだと言われるがまま歩くが、結局わからない。
おそらく正規のバスはないのだろう。適当にカズベギに行くという乗合バスを見つける。値段は集まった人数次第とのこと。というか集まらないと出発しない。
そんな感じで10分ぐらい待っているとアジア人が別々に3人ほど集まってきた。「日本人の方ですか?」と聞いてみるとうち二人が日本人、あと一人は中国人とのことだ。私を入れて3人が日本人。程なくして乗合バスは出発した。
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乗合バスは爆速で「軍用道路」と呼ばれる山道を走る。シートベルトは義務でなくてもしなくては飛んでいってしまうほどだ。日本人三人は自己紹介を済ませると「このクルマすごいですね」とか飛ばされそうになりながらどこから来たのか話す。
一人は男性で中央アジアあたりから旅をしているとのことだ。「ウズベキスタン、イラン、アゼルバイジャン、ジョージアと来ました。とにかく食事の味が単調ですぐ飽きました」とのこと。私のような者はたまに食べるからこの辺りの料理を「おいしいおいしい」と食べるものの確かに毎日だと飽きる。このままトルコだかまで旅をして帰国し、その後はチャリダーとして日本を縦断するんだとか。
もう一人は女性。「お盆のタイミングでトルコ経由で来ました」とのこと。ジョージアに来た理由は「なんとなく興味があったから」というフットワークの軽さ。そこまで旅経験が豊富ではないのにジョージアに来てしまうのは好感が持てる。
この乗合バスでコミュニケーションが取られる日本人が一緒にいて良かったとつくづく思う。ラッキーとしか言いようがない。
相変わらず山を縫うようにバスは進んでいく。
程なくして山間の教会に着く。
「おー、めっちゃ綺麗!」
ジンヴァリ湖の湖畔にあるアナヌリ教会はオーソドックス(正教会)とすぐにわかる丸っこい佇まいをしている。どことなく無骨で要塞のような印象も受ける。アナヌリ教会はアラグヴィ公爵家の持ち物で中世ごろのものだとか。
「20分ぐらい休憩」とのことなのでこの教会を歩き回ることにする。ふと思うのだが、海外の運転手は本当に休憩をしないが大丈夫なのだろうか。
我々はバラバラに歩き回る。黄土色の石造りの壁は輝いて見える。ブルーの屋根も緑の中に映えている。電線が垂れていなかったらもっとフォトジェニックなのだが。
オーソドックスらしい教会をささっと見て有料のお手洗いへ行き再び爆走するクルマに乗る。
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バスは相変わらずの爆速で山道を走り抜く。途中崖に横転した車があり渋滞ができていた。我々も周りの野次馬と同じように一度車から降りてその様子を見る。
「あちゃー、絶対飛ばしすぎですよね」なんて人ごとみたいにいうが、実際それどころではないだろう。実際そう言った現場を見たにも関わらず、車の速度が変わらないのがこの国の素晴らしいところである。
程なくして山間の開けた空間に出た。コーカサス山脈と青空を背景にパラグライダーが飛んでおり、長閑なことこの上ない。最高の自然美だ。少し車を走らせると儀式の場なのか競技場なのか、それともただの観光地なのか、屋根のないホールの空間が見えた。駐車場があり、屋台もいくつか出ている。
ここも乗合バスで訪れるところの一つだったようで駐車する。外の空気は山岳部らしく非常に清々しい。最高の眺めだ。
日本の長野も美しいが、ここは壮大なコーカサス山脈が目の前にあり、その美しさは圧巻である。我々は思い思いにその競技場のような空間に向かった。空間にへ向かっていく。
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カズベギについた。まずは同乗者でアジア人の乗客を宿に下ろし、カズベギのバスターミナルに向かう。時間はもう11時近い。
「先にご飯にしません?」当たり前のように誰かが声をかけ、私たちは歩き方に乗っているレストランに向かった。
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